五十嵐敬喜『「国土強靭化」批判』

五十嵐敬喜『「国土強靭化」批判』

 五十嵐氏の本を読んで、消費税が社会保障費ではなく、公共事業費に使われる仕掛けが、消費増税法の附則八条二項に明記されているのを知った。「事前防災及び減災等に資する分野に重点的に配分する」という条項である。五十嵐氏によれば、この裏にはいま法案化しようとする自民党の国土強靭化推進グループがいるというのだ。その公共事業費200兆円に、消費税の社会福祉借金返済の0・8兆円の流用も視野に入っているというから驚く。
震災の復興の主体となる「市町村・コミュニティ」への一括交付金は廃止され、「基金」も作られたが、これも十分に働かず、安倍政権になり「分権と自治」から「集権と統治」に傾斜し、「国土強靭化」の名のもとに被災地で上からの政策が拡大されていくという。国土強靭化という新しい戦略モデルは,今後予想される大災害に田中角栄モデルの日本列島改造を、10年間200兆円で行うものである。それは土建国家をさらに乗り越え、戦争と同じように今や震災も「国民総動員」の運動をともなってきている。例えば道路建設を単に交通手段のための建設でなく、災害時の避難、ヘリ着陸の場としての巨大道路建設を目指すというような。
 五十嵐氏はこの国土強靭化には、今後の日本の少子高齢化や人口減少の予測がほとんど見られず、10年後の費用対効果からみても、巨大なコンクリートの建設物があり、人が利用せず、メンテナンス費用のみが財政負担になる危惧があると指摘している。
五十嵐氏は、無駄な大型公共事業から「総有」と「市民事業」による新しい国土・都市論を政策提案しており。重要な未来モデルだと思う。
 「総有」というのは、絶対的所有権にこだわらず、昔からある入会地の在り方、今は市民・民間・自治体などの協同した使用権の提唱である。「市民事業」とは地元にある互助精神ある共同体が、国や自治体の「公共事業」に代わり、自ら施主及び施工事業者になり事業を行うことをいう。五十嵐氏は、自立復興と市民事業を、石巻市北上町白浜復興住宅や、陸前高田市広田町長洞地区元気村を挙げている。
 この本に書かれていることは、今後の日本にかかわる重大な選択の問題であり、国民が真剣に検討すべき問題だと私は考える。(岩波書店