ジョン・グリビン『銀河と宇宙』

ジョン・グリビン『銀河と宇宙』

 天文学では銀河は、物理学の原子にあたる。20世紀ハッブルが巨大望遠鏡で観測するまでは、太陽系がいる我々の銀河が、宇宙全体だった。それがここ100年で、我々が属する銀河は、数千億個ある渦巻銀河の一つに過ぎず、太陽はその銀河の端のあたりの環境に位置し、この銀河系も宇宙では平凡な銀河にすぎないという「平凡原理」が実証されてきたとグリビン氏は指摘している。
 コペルニクス地球中心説を打破してから、いまや地球が属するこの銀河系も、無数ある「島」銀河の一つにすぎなくなってしまった。宇宙誕生のビッグバンから、銀河の最後のビッククランチまでの記述は、100億年単位で論じられているし、中心のない宇宙膨張も100億光年が単位なのだ。
 さらに、銀河に代表されるバリオン(通常の物質)は、宇宙のエネルギー密度で計算すると、全体の5%、残りは27%はダークマターで、68%はダークエネルギーだという。とすれば銀河も宇宙では「平凡」な存在ということになる。グリビン氏によれば、ダークエネルギーは宇宙の膨張を加速する反重力作用のエネルギーで宇宙全体を満たしているが、目に見えないという。このダークが銀河の誕生と進化を理解する枠組みに成ってきていることをブリビン氏は詳しく述べている。
 また銀河の中心にはブラックホールがある。そこには、太陽質量の400万倍のブラックホ−ルがあるという。ブラックホールとは、重力が非常に強く、脱出速度が光速度を超える天体だ。グリビン氏は、これが銀河を生みだす基になると指摘している。ともかく、私の認識能力をはるかに超えた観測や理論が、この本には詰まっている。
 遠くを見ることは過去を見ることであり、空間距離ではない。最古の銀河を見る為にハッブル宇宙望遠鏡で「ろ座」の一角の真っ暗な天域を、合計100万秒露光し、800回の別々の画像をコンピュータで結合した合成画像は、宇宙誕生から9億年しか立っていない最古の銀河から発したといわれても、バリオンで形成されている私にとっての認識能力を超えている。(丸善出版、岡村定矩訳)