ベジャン&ペター・ゼイン『流れとかたち』

ベジャン&ペター・ゼイン『流れとかたち』

この本は、流動がすべてをデザインするという視点で書かれている。だがデザインの本ではない。ベジャンは熱力学の工学者である。無生物のデザインも、生物のデザインも社会組織も、工学的構造物も、エネルギーを効率的に使って、地球上でより多くの質量の流れを速めるなど、良くするように進化するというのだ。それをベジャンは「コンストラクタル法則」という。
 この本の特徴は、河川の流れの樹状構造を、人間の肺や心臓の全身に循環させるかたちの樹状・流動のかたちと同一視したり、動物の走る・泳ぐ・飛ぶという流動性のかかたちを、より効率のよい人間のスポーツの進化と共通性を見いだしたり、樹木や森のかたちとエッフェル塔の同一性でみたり、流動デザインの「統一理論」を目指していることだ。それは社会の自己組織化が「自由」であれば、流動系の「階層性」になるという見方になる。
 もう一つの特徴は、ブリゴジンの「散逸構造論」や、S・J・グールドの「進化論」にみられる非決定論・偶然論を排して、エネルギーを有効に効率よく利用していくには、流れがよくなるよう決定論による進化をせざるを得ないという見方である。工学者らしく、物理法則に、自然も生命も機械も社会組織も従うというのである。ベジャンは「コンストラクタル法則」によって、複雑系創発的で、フラクタル乱流で、非線形でカオス系だという「ポストモダン的科学」の見方に、異議申し立てをしている。
 ベジャンの予測は合理的で楽観的だ。熱力学第二法則の専門家だが、エントロピーの増大に対して流動抵抗を軽減させるように、果たして進化していくのかに私は不安感をいだく。また社会組織や学問の階層性は、固定化していくのは、はたして流動化と矛盾しないのかとも思う。だが流動化によるかたちというデザインによる全体理論には、目を見張るような刺激を受けた。宣伝で恐縮するが、私の著書『カオスの読みかた』(筑摩書房)を参考に読んでもらえればと幸いと思う。(紀伊国屋書店、柴田裕之訳・木村繁男解説)