白井聡『永続敗戦論』

白井聡『永続敗戦論』
第二次世界大戦でポッダム宣言を受諾してから「戦後」が始まったが、「終戦」なのか「敗戦」なのかという言葉の問題でなく、戦後の構造的問題として「敗戦の否認」を指摘するのが、白井氏の立場である。国内、アジアには敗戦の否認をして戦前の「国体護持」を続けながら、アメリカには従属的盲従という敗戦を利用している体制を、白井氏は「永続敗戦」といっている。戦後日本の二重性がそこにあるというのである。
「平和と繁栄」という戦後神話がゆるんでいる今、この二重性の矛盾が噴き出してきている。白井氏は、尖閣諸島竹島北方領土の領土問題と北朝鮮拉致問題を検討することにより、「戦後の終わり」を告げる状況を分析している。だが、もっとも鋭い主張は、戦後の国体としての対米従属というアメリカの影の批判である。日本は日中戦争では中国にも敗北し、ソ連参戦でもソ連にも敗北し。朝鮮抗日戦争にも敗北したのに、なぜ「戦後」アメリカだけに従属したのかが、「国体護持」という両国の利益と米ソ冷戦の状況から説明されていく。ダワーの「敗北を抱きしめて」と近い見方だと思う。
私がこの本を読んで日米安保体制への踏み込みがなされていないのが残念であった。沖縄問題は、米軍基地占有の永続という「領土問題」であり、北方領土尖閣諸島と共通する。そこには「永続敗戦」が具体的に存続しているし、返還密約にいうように非核三原則は無効になっている。日本が戦後を脱却するためには。朝鮮半島から日本列島を非核地帯にするとともに、米国、中国とロシア、韓国、北朝鮮と、憲法9条を国是として前面に掲げ、永世中立条約を締結し、中立国になることにより 「永続敗戦」から脱却するしかないと思う。
 この「非核地帯」には脱原発もはいる。その上で米、中、ロに核兵器削減を求めていく。21世紀国際政治では、核保有国に非核国連合がいかに核兵器廃絶を要求していけるかが重要になる。白井氏の本は、今後の日本のいく末を考えさせてくれる好著である。(太田出版