開沼博、山崎亮ら『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』

開沼博、山崎亮ら『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』

 この本はNHKEテレ「ニッポンのジレンマ」における討論を収録したものである。1970年代以降生まれの「失われた世代」の学者たちが、東日本大震災の「復興論」と日本の「地域活性化作戦」を論じたもので興味深い。どちらも理想を追うのではなく、与えられた現状から地域を復興・活性化していくかを論じている。
いま被災地に関わることは、先進的問題の解決に向かう「世界史を書くことだ」という開沼博氏や、藤沢烈氏の「当事者性とは自分にとって被災地の復興とは何かを問うことから始まる」という姿勢が見られる。河村和徳氏は被災地とその外のギャップがひろがってきているといい、また被災地コミュニティ内部でも分断がでてきているし、熟議かスピード決断かのジレンマもあると指摘している。復興もインフラなどの公共事業というハード重視と、地域の顔の見える関係というコミュニティ再建というソフト重視のジレンマをいかに統合していくかの問題がある。開沼氏は「政治的社会活動」と対になる「市場的社会活動」を打ち出す重要性を述べている。
「ぼくらの地域活性化作戦」は面白かった。藤村龍至氏が、道州制、経済圏の分割にいまのJR東海や東日本、西日本といった鉄道区分を当て、6つに分ける日本列島改造論を打ち出す。それに対し西田亮介氏は政官財主導のトップダウンになるから、自治体の自由な試行錯誤の再編というボトムアップを主張する。西田氏は地域の理念を地域で作り、それを制度設計や産業振興につなげていくという視点で、鯖江市の例をだす。
コミュニティデザイナーの山崎亮氏は、共通な関心や趣味で集まったアソシエーションの集まりと、古くからその地域でくらしてきたコミュニティを組み合わせ、わくわくさせるような活力を作り出す自助努力を重視する。古市憲寿氏は、地方や郊外の多様性を認め、各自治体の財政基盤の不均衡が格差につながることを憂慮する。人口縮小と過疎化を、いかに縮小し利点を産み出すかの議論も重要だと思った。(朝日新書