ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(3)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(3)

     「帝国の緩やかな黄昏」という副題がついているように、3巻では、カーター、クリントンレーガン、ブッシュ二代、オバマまでの大統領時代が描かれている。冷戦終結ソ連崩壊、単独覇権国家になったアメリカは、湾岸戦争9・11世界貿易センタービルへのテロから、イラク戦争アフガニスタン対テロ戦争と軍事国家として、疲弊していく。
     冷戦のマッカシー始め反共主義にしても、ブッシュのイラク大量破壊兵器所有の思い込みにしても、ネオコンにしても、政治的パラノイアが強すぎる。アメリカ政治の病弊だと思う。
     ストーンの本を読んでいると、冷戦を作りデタントを壊し、ソ連の軍事費破綻をアメリカがおこなってきたことが見えてくる。冷戦終結以後、アメリカンの軍事予算は逆に増大し「軍事国家」が激しくなるのは、レーガン時代である。レーガンスターウォーズ固執したためデタントは崩れる。
     中東にアメリカが介入し始める背後には、石油資本の力がある。ブッシュ・ジュニア政権は「石油に漬かったマリネ」といわれるように、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領ともに石油業者であり、ライス国務長官もシェプロン役員だった、ネオコンという右翼的保守主義がそこに集結する。
2000年大統領選挙は、「民主主義の暗殺=選挙クデータ」というストーン氏は、フロリダ州の再集計の醜い謀略を暴いている。ゴアが当選していたら、イラク戦争対テロ戦争はなかったともいう。9・11テロ情報を、諜報機関が再三ブッシュに進言しても無視されたというのにも驚く。
ブッシュ・チェイニー体制は、イラクに「地獄の門」が開いているとストーン氏がいうように、アメリカの民主主義・人権がどんどん崩していく。国防総省の巨大化、核恫喝、捕虜虐待、盗聴などテロ防止の市民的自由の侵害、あからさまな富裕層優遇などストーン氏は、批判的に描いている。
オバマ大統領に、傷ついた帝国の運営を期待されたが、それが幻滅になっていく歴史も書かれている。オバマの中道路線は、進歩的路線が次々と妥協により破綻していく。オバマのもとで、最大の勝利を得たのは、ウォール街だったという。ゴールドマン・サックスの共同会長のルービンを財務長官にし、その経済顧問も手下で固め、銀行救済や経営者の報酬制限を骨抜きにし、上位1%が国の富の40%所有の国家にしていった。
オバマはブッシュが作った「安全保障国家」を引き継ぎ、秘密主義に輪をかけた。パキスタン・アフガンでは、標的暗殺を無人機ドローンでおこない、多くの民間人を殺した。
ストーン氏は書く。「長く悲惨な戦争を二つ行い、何兆ドルもの軍事費を注ぎ込み、1000を超える軍事基地を国外に築き、複数の大陸で囚人を拷問にかけ、虐待し、国際法と合衆国憲法の両方を踏みにじり、経済を破綻させかけ、無人機を使ってテロの容疑者と民間人を無差別に殺害し(後略)
私たち日本が集団的自衛権で護ろうとしているのは、こうした軍事帝国なのだ。ブラックユーモアさえ感じてしまう。(ハヤカワノンフィクション文庫、金子浩ら訳)