細見良行『琳派』

細見良行『琳派

2015年は「琳派四百年」だという。本阿弥光悦徳川家康から、京都・鷹峯に土地を与えられ、「芸術村」を作り、俵屋宗達らと芸術制作を行った年の始めだからだ。
多くの日本美術を収集している京都・細見美術館長の細見氏が、尾形光琳、乾山、酒井抱一、鈴木其一、神坂雪佳まで、この本では簡潔だが深い美術観によって、琳派をコンパクトに纏めている。
琳派は絵画だけでなく、襖、屏風、茶碗、漆器、硯箱、団扇など工芸と横断的な創造だということだ。絵画中心でなく、生活調度品にいたるデザイン家だということがわかる。
細見氏によると、琳派は職業的絵師集団ではなく、富裕町人や大名家子弟など趣味人的で、「遊び人」的であり、狩野派や土佐派とは違う。「文人画」的である。
琳派は平安朝の雅文化のルネッサンスである。西欧が古代ギリシアの再生だったのに似ている。様式においては「やまと絵」、和歌的には「古今集」と細見氏はいう。私は雅文化だと思うが、さらに江戸期のユーモア(俳諧的)と装飾性をもった遊び心を感じる。
宗達の象を描いた「白象図杉戸」は漫画的だし、「双犬図」もそうだ。渡辺始興「白象図屏風」も頭を垂れているのが面白い。
光悦と宗達のコラボである「鶴下絵和歌巻」は鶴の動きをアニメの動画のように描く。リズムと反復によりアニメ化するのは、光琳「燕子花図屏風」から、抱一「槙に秋草図屏風」鈴木其一「朝顔図屏風」まで見られる。光悦の書も濃淡のリズムがある。
細見氏は金銀やあざやかな色彩の多用、単純化したデザイン、大胆な構図、水墨画の「たらし込み」など、滲みやぼかしを用い、輪郭線少なく柔らかな潤いに満ちた柔らかな描法を挙げている。
この本では細見コレクション始め約75点の琳派の作品が掲載されていて、其れを見ているだけでも楽しめる。(角川ソフィア文庫)