関雄二編『神殿と権力の形成』

関雄二編『神殿と権力の形成』

     日本の考古学は、西アジアメソポタミア)や南米ペルーなどの50年以上の発掘調査で、目覚しい成果を挙げてきた。最近では、南米ペルーのアンデス調査団の発掘は、世界的に注目されている。この本では西アジアアンデス古代文明の成立を、アンデス調査の結果から大胆な古代文明論を展開していて、興味深い。
     メソポタミアなど古代文明成立の「新石器革命」論では、農耕・牧畜による余剰生産物によって、階層格差が生まれ、王権など権力者が生じたという経済重視(唯物史観)や、ジャレット・ダイヤモンド(『銃・病原菌・鉄』)の環境的生態論がある。だが関氏を中心とするアンデス調査団は、長年にわたる神殿の民衆の自発的な建設と建て替えが、祖先崇拝と記憶・伝統共同体の古代文明を作り出したという「神殿更新説」をとなえているのだ。
    関氏らの説が凄いのは、長年にわたる古代アンデス遺跡の発掘によって裏付けされていることだ。関氏は神殿の建設、破壊、更新という一連の建築活動を「儀礼的行為」と位置づけ、共同体成立の中核ととらえる。
    松本雄一氏は、カンパナユック・ミル遺跡とサハラパタク遺跡から、神殿建設・更新の饗宴などで出たごみ、また使い終わった道具や、壊した廃棄物が神殿内の見えるところに処理場としてのこされているのを発見し、聖なる儀礼的廃棄処理場が共同体記憶の系譜に位置づけられているという。私は現代の核廃棄物問題を思い浮かべた。
    三宅裕氏や下釜和也氏は、それを西アジアにおいても、狩猟採集時代に、経済発展や都市化、階層性の成立以前に、神殿建設がおこなわれているというアンデス文明に近似の状況を書いている。もしそうなら「神殿更新説」は古代文明形成期の特徴となるかもしれない。自発的に神殿を作る中で、神官や権力者が生まれてくる。
   この説は、世界的にはまだ少数説だというが、私は。これを読みながら日本の伊勢神宮出雲大社などの「遷宮儀礼や、祖先崇拝を連想した。アジア的な共通性があるのがろうか。(朝日新聞出版)