金沢百枝『ロマネスク美術革命』

金沢百枝『ロマネスク美術革命』

    西欧史では、12世紀ルネッサンスといわれる。農業の発展により生産力がたかまり、温暖化もあり多くの村が開発されていく。領主の城や教会堂の建築ブームが起こる。このとき聖堂を設計し彫刻した美術を「ロマネスク美術」という。11世紀から12世紀の聖堂を数多く訪れ研究している金沢氏は、それは「美術革命」だったという。
    日本では、ゴシック建築・美術や、ルネッサンス芸術に人気が高いが、その素朴で自由で、幻想的なデフォルメされた美術は、モダンアート時代に再発見されたと、金沢氏はいうのである、
    ロマネスクには二重の混淆性がある。キリスト教と土着的非キリスト教文化、地中海ギリシア・ローマ文明とゲルマン民族文明、野生と洗練、写実と歪んだ幻想性など両義性がある。聖堂も垂直に天を目指すゴシック聖堂と、大地にどっしりと根ざしたロマネスク聖堂の相違は多きい。
    金沢氏は、教会の扉口や、柱頭にある彫刻を、中世のジャコメッティや、セザンヌピカソと例えている。私が面白く読んだのは、扉口彫刻のひねり歪んだ人物たちで、マニエリスム美術的にみえる。
さらに、海獣ケートスや大蛇、ドラゴンなどの怪物的幻獣が。蔓草のように、お互いに喰らいあっていたりする。なぜ聖なる教会の入り口に怪獣がいるのかの分析も面白かった。尾形希和子著『教会の怪物たちーロマネスクの図像学』(講談社選書メチエ)も面白いが、金沢氏の見方とは大分異なる。
    デフォルメ美術を、アーチの半円形、柱頭の斜線など建築上の「枠組みの法則」でとく美術史家フォションの説では、オータン聖堂などの能動的でエネルヂーに満ちたh表現力の謎は解けないという。民衆的な想像力と、その制作に携わった無名の石工集団の身体重視と、「石に聞け」という素材物質から考えようとする金沢氏の論は、興味深い。
    モダンアートの前衛美術を通って、ロマネスク美術が再評価されてきていることが面白い。(新潮社、新潮選書)