デズモンド・モリス『サル』

デズモンド・モリス『サル』

    動物行動学者モリスには、動物行動学から見た人間論『裸のサル』(1994年刊、角川書店)という名著がある。今度は本当のサルを、この2013年刊の本で描いている。サルについての人間社会での歴史・文化から生態まで、該博な知識で描いていて面白い。
    日本でも京大霊長類研究所などで、サル学は高度な研究レベルを持っている。モリスは「賢いサル」の生態も分析しているが、どちらかというと、サルの文化的考察に重点が置かれている。「聖なるサル」として、古代エジプト聖神ヒヒ、古代インドの猿神ハヌマーン、中国の猿王孫悟空、日本の三猿について述べる。アフリカや南米の部族のサルの仮面や像、儀式も論じる。
    だが、古代ギリシア・ローマ世界からの西欧世界では、邪悪で好色で、猿真似しか出来ない愚かな動物と見做されていた。家畜として役立たずこともあるだろう。ダーウィンが進化論で人間の近縁関係と見たことの批判は、そこから出てくる。実際のサルはハーレム制を取るが、過剰なセックスは嫌い、交尾は8秒という。人間の方が好色だ。
    好奇心と敏捷さ、遊び心、器用な手先などサルは、芸人として、介護者として、宇宙飛行士や医療実験動物として人間に利用されてきた。172種のサルのうち、20種はいまや絶滅危惧種だというの、ショックを与える。モリスは「賢いサル」の典型を、オマキザルに見出している。硬いやしの実を、自分の体重の7割もある重い石で打ち砕くことや、仲間同士の助け合い・協力の精神は、人間の祖先だと思わせる。
    1999年初のクローンサルが、オレゴン国立霊長類研究所で生まれた。一方、21世紀になっても新種のサルが発見されている。2003年インド東北部で、2010年ミャンマーで「ビルマシシバナサル」が発見された。
    モリスの本を読むと、人間が近縁のサルをどう見てきたかがわかる。同時に人間とは何かもわかってくる。カラー・モノクロ写真が多数掲載され、楽しく読める。(白水社、伊達淳訳)