ストーン『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(1)

ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(1)
    アカデミー賞監督ストーンとカズニック・アメリカン大歴史学教授が書いた20世紀アメリカ史である。20世紀に「覇権国家」になったアメリカの、光と影を描いている。
ストーンによれば、それは幻滅の歴史であり、アメリカは世界で例外だという「例外主義」批判の視点が貫かれている。 それが歴史に縛られたくない「自己愛」の国家観をつくりだす。ストーンは、アメリカは植民地帝国主義ではないが、「軍事基地帝国」という支配様式をとるという。
1巻では、帝国のルーツ「戦争はあこぎな商売」というフィリッピンキューバ征服の米西戦争から始まり、第一次世界大戦、ニュー・ディール、第二次世界大戦原子爆弾の4章に分かれている。
第一次大戦時のウィルソン大統領を「革命嫌いの人種差別主義者」と描き、反戦派と参戦派の対立、アメリカが世界経済に君臨する始まりとしている。化学兵器研究が大学で行われ、最大の毒ガス工場をもち 化学兵器使用禁止のジュネーブ条約に批准しなかった。ロシア革命に介入したのは、ロシア皇帝にかした100億ドル回収のためとか、ドイツ賠償金が、いかにモルガン財閥の利益になったかを述べている。
ニュー・ディール時代・ルーズベルト大統領時代も面白い。モルガンやデュポン家など独占資本家が、ナチス軍需産業取引でいかに協力したかを、1934年の上院ナイ兵器公聴会を中心に描き、フォードの書いた『国際ユダヤ人』が、ヒットラー反ユダヤ主義の元になったという。反戦家ストーンの史観が冴えている。
第二次世界大戦中に、世界銀行国際通貨基金のプレトンウッズ体制の基礎が作られた。世界経済のパワーバランスの変わり目になる。米。英・ソ連の連合は次第に崩れ、ルーズベルトの死の前に、対ソ強行派のハリマン鉄道王、ウオール街の投資家フォレスタレルなど実業家、ダレス、アチソンなどの国際法律事務所の人々が、トルーマンをもり立てる。
1巻の白眉は、広島・長崎への原爆投下の決定である。トルーマン大統領の「凡人の悲劇」とストーン監督はいう。進歩派のウォレス副大統領が避けられ、トルーマンという目立たぬ凡人、なぜ抜擢されたかを的確に分析している。
ミズーリ州の農場で過酷な父親に男らしくなれと育てられ、遠視で分厚い眼鏡を掛けたトルーマンは、スポーツも出来ず「いじめられ子」だった。大学進学を断念し、起業3回失敗し、有力地方ボスの政治派閥の傀儡として政界入りする。
ストーンは、すでに降伏を打診し、戦力もない日本に原爆投下は無意味とする軍指導者らの反対にもかかわらず、トルーマの決定はソ連の日本進出にたいする恐怖だったと主張している。日本のポッダム宣言拒否の前に決定していたともいう。(ハヤカワノンフィクション文庫、大田直子ら訳)