山崎裕人『がん幹細胞の謎にせまる』

山崎祐人『がん幹細胞の謎にせまる』

      私はがん患者だから、がんに関する本に興味がある。がん遺伝子が発見され、さらにがん抑制遺伝子、がんシグナル伝達系まで、解析されて、次第にがん研究は進展してきている。  
      2015年には、国立がん研究センターは、難治の胆管がんと胆嚢がんの進行遺伝子32個を特定した。そのうち14個は、肺がんや乳がんの遺伝子を抑制する「分子標的薬」が有効だという。(「朝日新聞」2015年8月11日付)
      山崎氏の本は、がん遺伝子研究と、いま重要な万能細胞(ES細胞やiPS細胞など)である「幹細胞」を結びつけた「がん幹細胞理論」の歴史をたどり、それによりがん治療の今後の在り方を指し示していて、興味深い。
      正常細胞とがん細胞は、裏表の両義性をもっている。幹細胞とは、あらゆる臓器に分化できる万能細胞である。胚性幹細胞は受精卵であり、それが細胞分裂して分化していく。もう一つ体性幹細胞があり、臓器に分化してもそのなかに、依然として残存している幹細胞がある。体内で死滅する細胞を再生させる。
      山崎氏の本では、血液中の造血幹細胞の発見から、いかにがんである白血病の治療薬に行き着くかが刻銘に描かれている。それは「がん幹細胞理論」を発展させていく。再生医療の希望の万能細胞の幹細胞は、裏ではがん幹細胞の存在と表裏一体なのである、
      山崎氏によれば、がん幹細胞は、現在のがん治療に抵抗し、抗ガン剤にたいし、薬剤耐性遺伝子を発現するし、休眠状態にあるため放射線治療にも抵抗するという。再生医療でもがん幹細胞が残り、がんを発生させる、山崎氏は、21世紀のがん治療には、がん造血細胞を阻害する分子標的医薬、抗体医薬を重視している。がん免疫療法もその一つという。
      果たしてどうなるのか、希望をもって生きようと私はこの本を読み思う。(ちくま新書