2012-01-01から1年間の記事一覧

戸部良一『失敗の本質』

戸部良一ら『失敗の本質』 8・15の敗戦記念日に読みたい第二次世界大戦で敗北した日本軍の組織的研究である。東電の福島原発事故以後読まれているという。6つの戦闘で日本軍がなぜ敗れたかを分析し、失敗の本質を抉り出している。戦史の社会科学による解…

バーリン『自由論』

「自由論を読む④」 アイザィア・バーリン『自由論』管理社会であり、画一性で体勢順応社会、情報操作のメディア社会、つくられた異分子への「いじめ社会」で読む自由論の古典だろう。バーリンはミルの自由論を発展させて、多すぎる自由を目の前にして恐れお…

ラブキン『イスラエルとは何か』

ヤコヴ・M・ラブキン『イスラエルとは何か』 スピルバークの映画「ミュンヘン」(2005年)では、テロ首謀者のパレスティナ人をイスラエル人実行部隊が暗殺する。そこにはシオニズムによるイスラエル人工国家建設がメシア主義の理想の達成なのか、西欧的…

橋本治『浄瑠璃を読もう』

橋本治『浄瑠璃を読もう』 浄瑠璃論でもあり、江戸文化論でもある。私は「菅原伝授手習鑑」の「寺小屋の場」を歌舞伎や文楽で見ると、涙がどうしても出る。自虐的忠義のためわが子を犠牲にする不合理は、分かっていても涙が出る。浄瑠璃のストーリーは複雑怪…

国枝昌樹『シリア』 ロンド『シリア』

国枝昌樹『シリア』 フィリップ・ロンド『シリア』 シリアの内乱が続いている。2011年エジプト、リビアでの「アラブの春」とは違うようだ。アサド政権はなぜつぶれないのかについての元駐シリア大使だった国枝氏の分析は、シリアの内情をよく掴んでいる…

高橋英夫『西行』

『山家集』 高橋英夫『西行』 西行論は数多くある。小林秀雄、吉本隆明、白洲正子、小説では辻邦生「西行花伝」などが私の本棚には並んでいる。高橋氏の西行論は、西行の「心」に肉迫したもので、生涯から和歌まで、西行伝説から芭蕉への影響まで書かれてい…

黛まどか『引き算の美学』

黛まどか『引き算の美学』 俳人の黛さんは2010年から1年間パリで文化庁・文化交流使として俳句を講義し句会も催すなど活動した。その成果がこの俳句論に現れている。異国から日本文化を見直すと、日本の伝統文化は、言わないこと、省略することによって…

フリードマン『資本主義と自由』

「自由論を読む③」 ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』 1962年初版だが、資本主義における市場の自由から市民的自由を論じた「絶対自由主義」(リバタリアン)の古典といっていい。2002年版「まえがき」でフリードマンは、出た当時は無視され…

吉岡斉『新版原子力の社会史』

吉岡斉『新版 原子力の社会史』 日本の原子力開発の社会史である。こうした通史は少ないので貴重な本である。吉岡氏は原子力発電に批判的論者だが、その論調を抑えて極力客観的に科学技術史の基盤から、社会史、政治史、国際関係史、経済史の総合的視点で原…

ケラリーノ『消失 神様とその他の変種』

ケラリーノ・サンドロヴィッチ『消失 神様とその他の変種』 日本21世紀演劇で注目され、下北沢本多劇場などで公演されているケラリーノの劇作品2本が収録されている。ケラリーノのドラマの会話文体は、短く易しい日常会話で、歌舞伎のツラネのように登場…

新藤兼人『ある映画監督』

新藤兼人『ある映画監督』 映画監督新藤兼人と女優山田五十鈴さんが亡くなった。日本映画の昭和の時代がまた消えていく。新藤監督のこの本は「溝口健二と日本映画」という副題が示すように、日本映画の黎明期から戦後にかけて新藤監督が師事した溝口監督の栄…

中嶋彰『現代素粒子物語』

中嶋彰・KEK協力『現代素粒子物語』7月4日スイスにある欧州合同原子核研究機関(CERN)は、素粒子物理学の標準理論で万物に重さを与えた素粒子「ヒッグス粒子」が発見されたと発表した。1960年代にヒックス博士によって予測された素粒子が、やっと発見…

ミル『自由論』

「自由論を読む②」 J・S・ミル『自由論』 近代自由主義の基本になった本である。現代アメリカのリベラリズム思想の基本になっている。ミルの自由主義は二点からなる。一つは「公・私」二分割の考えだ。個人の私生活と私的行為の領域は「自分にしか影響を与え…

徳善義和『マルティン・ルター』

徳善義和『マルティン・ルター』 徳善氏は、ルターについて聖書を読みぬいた人物として捉えている。キリスト教は「ことばの宗教」だという。ルターはラテン語で難しく読めない聖書を自国語・ドイツ語に翻訳し、講演で民衆に伝えようとした。時代はニューメデ…

ルター『キリスト者の自由』

「自由論を読む①」 マルティン・ルター『キリスト者の自由』 ルターは、神の全能を侵害するものと個人の判断する自由意志論を否定し、神学決定論を主張したといわれる。だが同時に人間個人こそが、信仰の本質たる救済への「信仰の自由」をもつ主体だと見なさ…

斎藤貴男『消費税のカラクリ』

斎藤貴男『消費税のカラクリ』 消費増税の関連法案が国会で成立見通しで、税率は2014年8%。15年10%に引き上げられる。斎藤氏の本は、消費税とは何かをその歴史、ヨーロツパの付加価値税との比較、1989年に導入されてからの問題点など総合的に…

伊藤守『テレビは原発事故をどう伝えたのか』

伊藤守『テレビは原発事故をどう伝えたのか』 2011年の福島原発事故はメディアにとつても大きな分水嶺になった。伊藤氏は3月11日から3月31日に期間のNHKと民法キー局4局の原発報道800時間の映像を見てドキュメントとして検証している。労作であ…

西部謙司『FCバルセロナ』

西部謙司『FCバルセロナ』 2012年サッカー欧州選手権はスペインがイタリアに4−0の大差で勝ち、史上初の連覇を達成した。2010年ワールド・カップ優勝とスペインサッカーの強さを証明した。その中心にはFCバルセロナの選手たちがおり、好敵手レアル…

シェイクスピア『テンペスト』

シェイクスピア『テンペスト』(『あらし』) 最近『テンペスト』は注目され、様々な批評が出ている。脱植民地主義批評で、この戯曲の孤島に出てくる土着人キャリバンを論じた『キャリバンの文化史』(青土社)なども出ている。1990年代の東京での公演を…

レイ・ブラッドベリ『華氏451度』

レイ・ブラッドベリ『華氏451度』 ブラッドベリが亡くなった。この本は1953年出版というからSFでは古典になる。私は、かつてトリュフォー監督の映画「華氏451度」をみて、それにつられ読んだ覚えがある。冷戦時代アメリカで反共のマッカーシズムが…

塚本勝巳『ウナギ大回遊の謎』

塚本勝巳『ウナギ大回遊の謎』 海洋学者による天然ウナギの産卵場を探して、太平洋マリアナ海溝周辺の広い海で卵や仔魚を発見する学術研究の大発見を記した本だが、私は海洋冒険小説を読むような興奮を覚えた。メルヴィルの小説「白鯨」は獲物として鯨を探し…

佐野眞一『東電OL症候群』

佐野眞一『東電OL殺人事件』『東電OL症候群』(その二) 東電女性社員殺人事件で、元被告ネパール人ゴビンダの再審決定の決め手になったのは、殺害現場にあったゴビンダと別の男の体毛と、女性の体内から取られた精液のDNAが一致、第三者(真犯人)がいた可…

佐野眞一『東電OL殺人事件』

佐野眞一『東電OL殺人事件』『東電OL症候群』(その一) 2012年6月7日東京高裁は、東電女性社員殺害事件で無期懲役服役中の元被告ゴビンダ・プラサド・マイナリの再審開始と刑執行停止を決定し、ゴビンダを釈放、その後自国ネパールに帰国となった。佐…

ケネス・クラーク『風景画論』

ケネス・クラーク『風景画論』 西欧風景画を論じた古典だろう。西欧ではパルチノン神殿時代にも、シャルトル大聖堂時代にも風景画は存在せず、17世紀に入って取り上げられ、19世紀に主導的芸術になり、20世紀には終焉を迎えている。クラークの風景画論…

小川勝『オリンピックと商業主義』

小川勝『オリンピックと商業主義』 オリンピックは曲がり角にきていると思う。21世紀はスポーツ・ナショナリズムの時代といわれるナショナルの過剰、情報・記号化する劇場型スペクタクルのスポーツ、過剰な身体のためドーピングに行き着く問題、そして異常…

コリン・ジョイス『驚きの英国史』

コリン・ジョイス『驚きの英国史』 今年は英国エリザベス女王即位60周年やロンドン・オリンピック開催などで英国ものもかなり出版されている。フリージャーナリスト・ジョイス氏のこの本は英国史のエピソードやトピックから、さらに英国人の国民気質まで抉…

多木浩二『スポーツを考える』

多木浩二『スポーツを考える』 スポーツとは何かを考える評論として色々な示唆を与えてくれる。多木氏は、近代スポーツがイギリスで何故生まれたたかをエリアス『文明化の過程』によって、身体的闘争・競争の「非暴力モデル」にあり、人為的なルール(規則)…

川島浩平『人種とスポーツ』

川島浩平『人種とスポーツ』 魅力的なテーマである。確かにオリンピック陸上100m決勝で登場した選手56人は、ここ30年で総て「黒人」である。2012年現在陸上世界記録保持者は100mボルトからマラソン・マカウまで13種目ほとんど「黒人」が持…

吉田徹『ポピュリズムを考える』

吉田徹『ポピュリズムを考える』 欧州債務危機でポピユリズムの政治の台頭が言われる。日本でも1990年代以後、現状打破で人気を得る政治家が出現してポピュリズム的政治が注目されている。サッチャーから小泉純一郎、サルコジ、ベルルスコーニまで、さら…

大久保純一『カラー版北斎』 

大久保純一『カラー版 北斎』 浮世絵で北斎は「彫り」広重は「摺り」と言われてきた、北斎は卓越したデッサンと動的な描線により造型的であり、広重は絢爛たる色あわせを重んじる色彩重視という。大久保氏はこの本のなかで両者の名所絵や花鳥画を比較し、リ…