西部謙司『FCバルセロナ』

西部謙司FCバルセロナ



2012年サッカー欧州選手権はスペインがイタリアに4−0の大差で勝ち、史上初の連覇を達成した。2010年ワールド・カップ優勝とスペインサッカーの強さを証明した。その中心にはFCバルセロナの選手たちがおり、好敵手レアル・マドリードの選手も加わる。ではスペインのサッカーは何故強いのか。西部氏のこの本は現在サッカーチームで最高レベルというバルセロナという特別なチームの歴史やスポーツだけでなく文化的存在として描き出してくれる。
 バロセロナのチームを創り出した元監督クライフは「ボールを70パーセント支配できれば80%程度の試合に勝てる」といった。そのサッカーは合理的で緻密、慎重で常に計算されている。個人的身体能力の優れた選手は勿論いるが、そのシステム・プレーがバルサの芸術品である。ボールを常に保持し、短いパス、無理をしないバックパス、早いパス回し、早期のボール奪還、カウンターを許さないで再び押し込む戦術、典型的なセンターバックがいなくても点が取れるシステムなどを西部氏の本は徹底的に分析していて面白い。こうしたパスサッカーは、派手なストライカー中心でないから決定力不足で退屈なサッカーの批判を浴びる。南米の攻撃的サッカーとは対象的だといっていいい。
選手が先か、システムが先かは、ニワトリかヒヨコが先かの議論だが、バロセルナはシステムが先と西部氏はいう。だがバルセロナは少年期からサッカー選手を育成する下部組織(カンテラ)が充実しており、メッシ、チャビ、イニエスタ(今回活躍した)はカンテラ出身である。メッシをいかにシステムで使いこなすかがバルサの勝利の鍵になっている。メッシのボールコントロールを伴ったスピード、知的賢さという頭の良さのサッカーは、バルサのパスサッカーと調和している。何故メッシが「隠され」中盤に引いて来るかは、彼の武器の右から左に斜行するドリブルにあるからだと西部氏は指摘している。スペインといってもバルセロナは独自の地域の歴史と文化をもったカタルーニャ人の地域であり、今回も問題(モウリーニョ・レアル監督のストライカーがいないサッカーは迫力が無い発言)になったが、レアル・マドリードとは他種の意識が強い。そこにもバルサの強さの鍵がある。西部氏に次回は南米サッカークラブ(ブラジルなど)の分析を書いてもらいたいと思った。(ちくま新書