吉田徹『ポピュリズムを考える』

吉田徹『ポピュリズムを考える』

      欧州債務危機でポピユリズムの政治の台頭が言われる。日本でも1990年代以後、現状打破で人気を得る政治家が出現してポピュリズム的政治が注目されている。サッチャーから小泉純一郎サルコジベルルスコーニまで、さらにこれから橋下徹などポピュリスト政治家が輩出してきている。
     吉田氏によればポピュリズムとは、現代民主政治では不可避であるという。吉田氏の定義は「国民に訴えるレトリックを駆使して変革を追い求めるカリスマ的政治スタイル」だという。吉田氏の本の特徴はポピュリズム大衆迎合とか、デマゴーグによる独裁専制政治とは捉えないで、政治閉塞や官僚制の既得権益や、不平等への疎外感、議会制民主主義の代表の固定化などに対する「批判的人民主権」という面からポピュリズムの根底をみようとする点にある。
     現代ポピュリズムがネオ・リベラリズムから発している。ポピュリズムは「既得権益」をもつ選良批判の「反エリート主義」であり、現状の不公正に不満をもつ「否定の政治」であり、その原因になる「敵の想定と排除」をもつ。
     自分たち(人々)の共同体のなかの平等と敵(想定された)の排除が両立している。否定形の人民主権である。政治家は「代表」というよりは、人々の共有する「物語」を「表現」するカリスマであり、メディアによる起業家的マーケッチングの手法を使い、「表出=感情」を介した劇場型共同性が優先する。議会制民主主義を護持しながら、大統領制や首相公選制が果たして両立していくのかが大きな問題である。
     吉田氏は多様・多層的な共同体の人々の合意を「理性=懐疑」で討議していく「熟慮=参加型民主主義」と、力強い情念と不平等主義をテコとした「信念=情念」のポピュリズムを車の両輪とした民主主義が、今後の政治への不信感を解消し、無党派層の参加を呼び出す人民主権になると考えている。ポピュリズムの負の側面をいかに克服していくかは今後の重要な課題になるだろう。(NHK出版)