中嶋彰『現代素粒子物語』

中嶋彰・KEK協力『現代素粒子物語』

7月4日スイスにある欧州合同原子核研究機関(CERN)は、素粒子物理学の標準理論で万物に重さを与えた素粒子ヒッグス粒子」が発見されたと発表した。1960年代にヒックス博士によって予測された素粒子が、やっと発見された。中嶋氏のこの本は2012年6月に「ヒッグス粒子発見秒読み」と銘打たれ出版されたから、タイムリーな本である。この本は「ヒッグス粒子を捕まえろ」と苦闘する科学者の物語から始まっている。スイスの地下100mに1周27キロの世界最大の円形加速器で、光速近くに加速した陽子と陽子を衝突させ、瞬時に光に変わる粒子を検出器で捉え解析して見つけ出す実験である。
この装置では1974年に「11月革命」といわれたチャームクォークという反電子の新クォークも発見している。だがヒッグス粒子発見がいかに難実験だったかを中嶋氏は丁寧に歴史を追い、わかり易く説明してくれて読みやすい。さらに素粒子の標準理論で考えられた素粒子17種類についてやさしく解説してくれている。また難しい統一理論も、電弱理論や量子色力学など取り上げていて現代素粒子学は、始まったばかりだと思わせる。
中嶋氏の本の特徴は現代素粒子論の預言者として、ノーベル賞を受賞した南部陽一郎氏の「自発的対称性の破れ」という難しい理論が、ヒッグス粒子の考案の原点になったとしていることだ、南部氏が超伝導という現象に興味をもち、研究を始めたが超伝導の塊のような加速器ヒッグス粒子が発見されたのも面白い。さらに宇宙の27%を占める「暗黒物質」の粒子の発見にまで視野を広げている。日本の神岡鉱山跡地に東大宇宙線研究所が設けた暗黒物質検出装置の実験で、この本は終わっている。素粒子物理学のさらなる超対称性粒子の発見と、宇宙の始まりに起こった謎の解明が今後も続いていく。(講談社ブルーバックス