コリン・ジョイス『驚きの英国史』

コリン・ジョイス『驚きの英国史

 今年は英国エリザベス女王即位60周年やロンドン・オリンピック開催などで英国ものもかなり出版されている。フリージャーナリスト・ジョイス氏のこの本は英国史のエピソードやトピックから、さらに英国人の国民気質まで抉り出していて面白い。英国という巨象をどう捉えるかは多様な本がある。私がこれまで読んで面白かったのは、1910年出版の長谷川如是閑『倫敦!倫敦?』(百年前のロンドン紀行で面白い)や、福田恒存『私の英国史小池滋『ロンドン』小野寺健『イギリス的人生』などである。ジョイス氏の本は余り知られていない歴史の断片を拾い上げ現代英国までエッセイ風に書いていくから一気に読める。
 第一次世界大戦は900万人の死者を出した悲惨な戦闘だが、1914年塹壕戦のクリスマス休戦に英独両軍が塹壕の間の中間地帯でサッカー試合をして遊んだのを、イギリス人はこの戦争で「正気」だった時間として記憶しているとジョイス氏は書いている。英国は第一次世界大戦まで徴兵令を敷かず、大英帝国はボランティアで運営されていたというのも驚きだ。海軍だけが商船の乗組員を「強制徴募隊」が港町の酒場などで強引につれてきたという。映画「戦艦パウンティ号の反乱」の冒頭シーンはその場面がある。第二次世界大戦中夜中に張られたポスターのコピー「落ち着いて行動しましょう」をジョイス氏は英国の自画像だとしている。私は日本の太平洋戦争中のスローガン「欲しがりません勝までは」と比較して日英の差異を感じた、
 ジョイス氏の歴史観も面白い。1066年のノルマン・コンクエストが英国史の中核として捉えている。1066を銀行カードの暗証番号に使うなとか、ノルマン語が英語に二重性を導入し面倒にした(「end」と「finish」など)とか面白い。17世紀前半にアフリカとアメリカやカリブの植民地への奴隷運搬の「三角貿易」システムで、英国を膨大な経済的利益を得たと書いているのを読み、私は中国のアヘン貿易を連想した。サッチャー時代のフォークランド紛争でなぜ英国が盛り上がったも書いている。海底資源争奪で日本近海でも問題が起こってきている昨今興味深かかった。マグナカルタアイルランド問題、なども示唆に富む。(NHK出版新書、森田浩之訳)