ケラリーノ『消失 神様とその他の変種』

ケラリーノ・サンドロヴィッチ『消失 神様とその他の変種』




日本21世紀演劇で注目され、下北沢本多劇場などで公演されているケラリーノの劇作品2本が収録されている。ケラリーノのドラマの会話文体は、短く易しい日常会話で、歌舞伎のツラネのように登場人物の流れるような文体で構成されている。別役実のようなセリフ文体である。登場人物も兄弟以外は男1、2、3、女1,2,3、などと抽象化されている。表面的な日常の小さな会話が、次第に人間関係の不気味な「場」を作り出していく。始めはサスペンス風で「謎」にみちているように見える。「不条理」のドラマなのかと思わせて、かなり「良識」のある「愛」の倫理に落ち着いていく。
「消失」は日常生活とSF世界が融合しているし、「神様とその他の変種」は日常生活と神様世界が融合している。「消失」は、その題のように消去・消失をテーマにしている。兄と弟による兄弟愛の物語のように見えるが、弟は兄の不注意で死んでおりアンドロイドである。その兄も自殺してしまう。登場人物の男2女2はスパイらしいが射殺されてしまう。人類が打ち上げた第二の月は核戦争で食糧が届けられず移住者は消失していく。弟「俺たちの小ささの話。いつかいなくなってしまう宇宙の話。」兄「まだまだ先の話さ。孫の孫の、孫の、そのまた孫の 「消失」」。だが再生の希望が許しとともに暗示され幕が降りる。
「神様とその他の変種」は開幕と共にホームレス姿の男が「どうも神様です」と観客に話しかける。そこには11歳のいじめられ登校拒否になった少年を中心にその両親(男1女1)や加害者両親(男2女29)や、女3の家庭教師、男5担任教師、認知症の祖母などが登場する。家の前の動物園飼育係(男4)も。ある意味ではドタバタ劇のような展開だが、ケラリーノの「善意・悪意」表裏一体の不思議な人間関係の場が作り出される。最後は神様が登場人物にボコボコにされ、刑事に逮捕されるナンセンス劇となる。だが私はケラリーノには人間の小ささを許しあう「愛」のドラマを感じてしまう。(ハヤカワ演劇文庫)