国枝昌樹『シリア』 ロンド『シリア』

国枝昌樹『シリア』
フィリップ・ロンド『シリア』

 シリアの内乱が続いている。2011年エジプト、リビアでの「アラブの春」とは違うようだ。アサド政権はなぜつぶれないのかについての元駐シリア大使だった国枝氏の分析は、シリアの内情をよく掴んでいる。私はシリアといえば古代からの「文明の十字路」という地域であり、多民族、多宗派のモザイクの国であり、オスマン帝国、フランス殖民支配のあと、1946年独立しバアス党支配のもと、エジプトと連合しイスラエルと第4次にわたる中東戦争を戦い、40年にわたるアサド家二代の支配政権を続けている「中東の活断層」だということは情報で知っていた。だがこの2冊を読み、アラブ諸国のなかでも特殊な国だということを知った。
 国枝氏によれば、シリアの「アラブの春」である民衆蜂起は、政権と反体制の武力戦争に発展し、宗教・宗派抗争になり、さらにメディア戦争(アルジャジーラ誤報問題など)になったという。さらにロシア・中国のアサド政権支持、アメリカ、EUサウジアラビア、湾岸諸国の反体制支持、トルコ、イラクとの緊張関係、根深いイスラエルの抗争など、かつてのレバノン紛争のような国際化の兆しもあり、1930年代のスペイン市民戦争のような悲惨な状況に成りかねない。国内でもバアス党政権とムスリム同胞団の根深い抗争が長年つづいており、トルコからのクルド民族やパレスチナ難民なども抱えている。
 私は国枝氏の本で二代目のバシャール・アサド大統領の10年が、自由主義的改革の時代であり、社会主義的国家統制から市場開放経済への体制内改革の時代を目指していたことを知った。アサドはイスラムスンニー派が多数を占めるなかでシーア派(イラン)のアラヴィ派であり、生活も質素で堅実だったことを知った。アサド政権が倒れないのもこの「ねじれ」現象にあるのかも知れない。アサド後も不透明でもしイスラム保守派のムスリム同胞団が政権を取れば、ナセル時代とは違うがエジプトとの新アラブ連合ができて、アメリカ、イスラエルは困るのではないかとも思う。
 ロンド氏の本は1987年刊と古いが、シリアと関係が深かったフランス学者が書いただけあって、国土、歴史、諸制度と政治、特にバアス党の意味や、イスラエルとの対立、アラブ諸国との関係など簡潔に欠かれていて、シリアを知るには最適の本だと思う。(国枝昌樹「シリア」平凡社新書、ロンド「シリア」宮川朝一訳クセジュ文庫、白水社)