戸部良一『失敗の本質』

戸部良一ら『失敗の本質』


 8・15の敗戦記念日に読みたい第二次世界大戦で敗北した日本軍の組織的研究である。東電の福島原発事故以後読まれているという。6つの戦闘で日本軍がなぜ敗れたかを分析し、失敗の本質を抉り出している。戦史の社会科学による解明である。たしかに読んでいると東電の組織と日本軍の組織が失敗において似ているように見えてくる。ノモンハンソ連との戦闘だが、残りのミッドウェー、ガダルカナルインパール、レイテ、沖縄戦は日米戦争であり、日本軍と米軍の比較研究もしており、なぜ負けたかの本質が見えてくる。
それぞれの事例研究は差異があるが、共通性もある。第一は「あいまいな戦略目的」で「二重の目的」で引き裂かれて成り行き任せで負けている。ミッドウェーでは島占領と米艦隊引き出しによる艦隊決戦に引き裂かれ、艦載機の陸上基地攻撃準備と航空母艦攻撃が二重になり、その交代時に米軍機に襲われた。米艦隊は劣勢だったのに、空母撃沈のみに目的を絞り勝利した。レイテ海戦でもレイテ湾攻略による米輸送船団撃滅の目的と、艦隊決戦を目指し「大和」「武蔵」の巨砲で戦うという目的に分裂した栗田艦隊が、レイテ湾手前での突入回避を行い敗れてしまう。主観と独善から「希望的観測」に依存し、合理的戦略目的を破壊していくのが日本軍だったという。
短期決戦の戦略志向が強く長期持久戦の戦略がなく、それはノモンハンガダルカナル沖縄戦に見られた。短期だから兵站補給や情報獲得、索敵などの組織が弱く、それがガダルカナルインパールの悲劇を呼んだ。そのため精神主義、白兵突入主義、奇襲主義にたよりすぎることになる。また人的ネットワーク偏重と組織内の対人関係の「間柄主義」、組織内の融和の論理が合理的判断より優先し、司令官―参謀の独断を引き起こした。インパールの牟田口司令官、ノモンハンガダルカナルの辻参謀の攻撃論が組織の「空気の支配」を動かし、中央と現地の二重性を創り出した。ミッドウェー海戦ノモンハンにみられる「不測の事態」が生じた時の対応が無視され、「安全神話」という米軍の過小評価により、希望的観測のもとで柔軟に危機管理が出来ず、また普段の練習でも攻撃ばかりで、防御が無視される組織特性を日本軍はもっていたと分析している。米軍は戦闘により学習し事態に適応し、自己変更していく柔軟な発想と組織内討議システムがあったのににくらべ、明治の日露戦争の勝利で作成された組織・戦略が教条的に固定化し変えられなかったのも、日本軍の失敗の本質だとこの本は指摘している。(中公文庫)