斎藤貴男『消費税のカラクリ』

斎藤貴男『消費税のカラクリ』

 消費増税の関連法案が国会で成立見通しで、税率は2014年8%。15年10%に引き上げられる。斎藤氏の本は、消費税とは何かをその歴史、ヨーロツパの付加価値税との比較、1989年に導入されてからの問題点など総合的に論じた本で、「消費増税不可避論」を徹底的に批判している。その結論はこうだ。消費税とは顧客や取引先との力関係で弱い立場にある中小・零細事業者、自営業により大きな負担を課す。増税分が価格にきちんと転嫁できないため「消費税倒産」を引き起こす。斎藤氏は中小・零細の独立自営業者が倒産したり、自殺したりした事例をルポしている。派遣や外注の非正規雇用者が増大する。消費税の「仕入れ税額控除」を利用して正規社員をリストラし、非正規を派遣会社から外注すれば合法的に大幅節税できるからだ。消費税増税と非正規雇用の増大が比例している。失業率も上昇している。
消費税は消費者が直接国に払うのではなく、売上税だから事業者が預かり金として納税する。だから徴税事務も増大しカネと労力がかかるとともに、滞納が増大する。国税滞納額ナンバーワンで2009年では滞納額の45%を占めている異常な税なのだ。反対に消費税は大企業、とりわけ輸出産業には「輸出戻し税」という制度で大きな利益を与えている。輸出取引では国内で発生した仕入れ時の消費税負担は完全に免除される不公平税制なのだという。日本経団連など財界が消費増税に積極的なのもうなずける。欧州の消費税が贅沢税的なのに、日本の法案では低所得者の負担が重くなる逆進性の対策は未定になっている。
斎藤氏は所得税の累進税率を20年前に戻し、法人税増税し、応能負担を貫徹すれば社会保障の資金を賄えると主張している。社会保障費の解決のため消費税が打ち出の小槌のような情報操作のカラクリがこの本で暴かれている。(講談社現代新書