シルバータウン『なぜ老いるのかなぜ死ぬのか進化論でわかる』

シルバータウン『なぜ老いるのかなぜ死ぬのか進化論でわかる』

老化や死は生物にとつて謎だ。こうしたものを抱え込んで進化してきたのは何故かを、英国の進化生態学者シルバーマン氏が解明している。老化や死が生物的な矛盾や両義性を持っているから、決して易しい本ではないが、面白い。
細菌のような単細胞生物は、短い世代で増殖するが、無性生殖で同じクエオーンで個体の老化も死もない。それは有性生殖の多細胞生物で出現する。多細胞は損傷や感染に対し新たな細胞をつくるが、細胞分裂のエラーの蓄積でガンにかかる。ところが「ピトのパラドックス」で、寿命が長いほうが、また大型生物のほうがガンから守られている。
こうした矛盾は超高齢になると老化が止まるというパラドックスにもみられる。人間の死亡率の低下は、初期死亡率の低下にあり、老化の減少ではない。長寿遺伝子の研究も面白い。だが、年を取ると自然選択は引退する。突然変異は若いときに有益でも、年を取ると有害になるという両義性があるという。
シルバータウン氏の本は、寿命と生殖が相関関係にあるところに注目した点にある。生殖細胞は化学信号で遺伝しスイッチを切り替え、寿命の長さを制御しているらしいという。身体をつくる体細胞は、ダメージを蓄積し老化していくが、生殖細胞は守られ次世代に受け継がれる。植物やサンゴなど群体生物は、体細胞と生殖細胞が融合しているから、突然変異から保護され長命になる。一回繁殖と寿命の関係も面白い。
外部要因による成体死亡率がたかくなれば短命になるが、外的死亡率が高まると、生き急ぎの生命が多くなるという。大型捕食者がいない環境では、老化は遅くなる。人間の長命は、初期に樹上生活という成体死亡率が低くなる環境で生活していた点にあるとみる。シルバータウン氏の人間の女性の長命と、他の哺乳類にない「閉経」の関係の指摘も面白かった。(インターシフト社、寺町朋子訳)