小泉義之『ドゥルーズの哲学』

小泉義之ドゥルーズの哲学』

フランスの思想家・ドゥルーズ(1925―1995年)の哲学を、小泉氏は分子生物学誕生による時代に、新しい生命化学を先駆的に示した哲学として構築している。ドゥルーズ『差異と反復』は1968年に書かれている。同一性哲学から差異の哲学へという思想を、小泉氏は普遍数学としての「微分」を、差異の場として書き始めている。
微分は、差異と差異の関係を限りなく生産する場である。自然物と生物は解けない微分方程式を、自ら条件を設定して。自ら解いているという。小泉氏が特異なのは、差異を生産する場を語るとき、道元大乗仏教の思想がとかれることだ。
有名な「ツリーとリゾーム」の考察では、プラトン哲学の転倒が述べられる。その上遺伝分子学が援用され、遺伝子存在を、差異を限りなく生産する微分的なものという。読んでいかなり難しいが、面白い。構造主義生物論との関係も重要だと思った。
解説で、近藤和敬氏が、現代分子系統学の小泉氏のプラトン後期思想の解釈について、物理主義でなく「むしろ逆に力学を生物学に適合的に見直す生物学主義」と、指摘しているのも面白い。
私は、未来の哲学で、小泉氏がドゥルーズスピノザ論「批判と臨床」、ニーチェ論「生存の肯定」、フーコー「人間の終焉」などで、愛の倫理学を解明しようとしているところに多くの示唆をえた。小泉氏は、人生は悲しみや苦しみの贖いでなく「生存の無垢」であるといいきり、生きるとは何の異常も障害も、欠陥も罪科もなく、万物の生成消滅は無垢であるという。またニーチェを、違いを発生させる力の肯定する大いなる健康としている点を論じている。(講談社学術文庫