マルクス『ドイツ・イデオロギー』

初期マルクスを読む(2)
マルクスエンゲルスドイツ・イデオロギー

       初期マルクスの著作は。1845年当時のドイツの思想界(ヘーゲル左派など)の論争が前提となっているから、それを知らないと理解しづらい。この本もフォイエルバッハやシュテイルナ―、バウアーの思想の批判と、マルクス自己批判を総括しているから難しい。
      マルクスは、意識や観念が生活を規定するのでなく、生活が意識を規定するという。ヘーゲルなどの体系思想の「大きな物語」を幻想とし、人間の生活を成立させている生産様式、交通様式から考えようとする。社会的な関係・連関・交通「私の環境に対する私の関係が、私の意識である」と述べている。
      ドイツ・イデオロギーは、「幻想」であり空文句にすぎない。意識は現実の「実践」から切り離されると、純粋な理論、神学、哲学、道徳の「僧侶」的なイデオロギーになる。マルクスは「分業」と「私的所有」に伴って、精神的活動と労働的活動が、生産と消費が分裂・矛盾するため、総合的個人が発展せず、特殊利害の思想が、共同的・普遍的思想にならないと見ている。
      特殊利害による競争が、普遍性という幻想を生み出し疎外していく。階級や諸国民の利害でなく、それを止揚した世界的な交通により生み出される普遍思想が、生まれない。ドイツ人の客観的歴史的叙述は、社会的諸関係を活動から切り離す反動性にある。
      支配的思想は、支配階級がつくりだした思想にすぎない。階級は自分自身の幻想を思想化する。幻想のイデオローグを社会の階級に位置づけるマルクス。この本では、思想の階級的性格と、意識の幻想性が徹定的に批判されている。唯物論である。
      補録「フォイエルバッハに関するテーゼ」では、「フォイエルバッハは抽象的な思考で満足せず、直観を欲する。しかい彼は、実践的な、人間的・感性的な活動として捉えることをしない。」「哲学者たちは、ただ世界をさまざまに解釈してきたにすぎない。肝賢なのは、世界を変革することである」
     マルクスは、本質・実体よりも変化を重んじ、事物よりも、そのプロセスの方を重んじている。
     私はこの本を読み。マルクスには経験論からプラグマチィズム的な考えがあり、さらにルソーの『学問芸術論』がモラルからの学芸批判だったとすると、マルクスは社会的生産労働からの学芸批判だと思った。(岩波文庫広松渉編訳、小林昌人補訳)