乙武洋匡『五体不満足』

乙武洋匡五体不満足 完全版』

  私は、身障者手帳4級を交付された。これまでほとんど関心がなかった障害者を、見つめ直そうと思った。福祉社会の恩恵が、数多くあるのも知った。乙武氏の本を、2001年発行の完全版で読んだ。かつてベストセラーになった本だ。障害者の新しい生き方が見られた。差別、弱者、閉鎖的などのマイナスの面よりも、身障を、差異、身体的個性、健常との無境界性が、乙武氏のアクティブの行動力で描かれている。
  生まれつき手足が不満足で、幼児期から電動車椅子の生活をよぎなくされた乙武氏の両親の寛大さに感動する。普通学級にかよわせ、養護・特別学級にしなかったことが、未来の乙武氏を育てた。障害という差異が、親や教師、子供を変えていく。障害を強く意識しないで、無理と思われることに挑戦していく。ここに書かれない苦難もあったとおもうが、ともかく「明るさ」と、人への性善説的信頼がある。いじめもない。
  中学の部活でバスケ部、高校でアメフト部に入部していき、皆が排除せず知恵をしぼって乙武氏の役割を作って行くところは感動する。乙武氏の自然な目立ちたがりやや、行動性というキャラもプラスに働いていて、悲壮感がない。「心のバリアフリー」がみなぎっている。退学時代まで障害者を特別に弱者と意識しなかったと、乙武氏は書いている。
  逆にユニバーサル・デザインの都市づくりが遅れている。予備校。大学では、段差の階段、エレベターなしなどが意識されるのだ。車椅子は眼鏡をかけるのとは同じという乙武氏は、21世紀のマイノリティとしての障害者の生き方を示唆してくれる。社会に出てスポーツライターや、小学校教師になるが、そこでこの本は終わっている。
  乙武氏の本は恵まれた楽天的な側面だけをえがいているという批判はあるだろう。社会における差別は、就職や結婚など根強いという人もいる。「心のバリアフリー」で「自分らしく」いきるという社会意識や制度、都市づくりなど、21世紀に向かって乙武氏の本は、発信している。(講談社文庫