ウッド『アメリカ独立革命』

ゴートン・S・ウッド『アメリカ独立革命

           アメリカ建国史の大家ウッド・ブラウン大名誉教授が書いたアメリカ独立革命史である。ウッド氏の視点は、独立革命は「共和主義」の考え方が、連邦憲法制定までの主導力だったという点にある。自由・資本主義的な革命の視点は、後背になっている。
           だが、史実を丹念に追いながら、人口増加と経済発展、英国との経済搾取への抵抗、独立宣言、さらに英国との独立戦争の過程、州と連邦政府の葛藤により連邦憲法制定に至る歴史を書く。全体像が良くわかる名著である。
           ウッド教授も述べているように、伝統的な植民地反乱や、保守的・知的出来事と見るのではなく、また20世紀の階級間や地域間の対立強調とも異なる、支配をめぐる人民主権の共和主義の革命として、歴史叙述として書かれている。
           英国のイングランド銀行、株式会社・市場、巨額な公債、などの商業会社化がジョージ三世の「コート」(宮廷派)として捉えられ、アメリカの自営農民や中小業者などが、英国少数派の「カントリー」(田園派)に親和感をもち、奢侈や縁故政治よりすべての成人男子の選挙権、議員や官僚の人数制限公債削減などをアメリカ人は適切と感じていた。それが共和主義の底辺にあるとウッド氏は指摘している。
           アメリカ邦(州)憲法は、独立当時に議会という立法権を重視し、行政権から干渉されないため、代表性の基礎は人口だとして選挙区区割り、一年交替などを規定していた。自由や田園的な質素な徳を備えた農夫市民からなる古代ローマの共和制を理想としていたという指摘は、いま日本でもアダムス式選挙改革がいわれていて、興味深い。
           英国君主制の恩顧庇護関係による縁故的世襲の「従属関係」にたいする批判が、アメリカ独立の共和主義の強調につながる。だが、独立後の共和主義社会が、議会重視のため、ポピュリズムが強まり、選挙至上の「多数派専制」を各邦議会に無秩序的風潮を生み出し、「連邦派」による議会の外の人民主権を背景に、三権分立による連邦憲法制定により、統一中央連邦に向かうという見方も面白かった。(岩波書店、中野勝郎訳)