隈研吾・山口由美『熱帯建築家』

隈研吾・山口由美『熱帯建築家』

   いま注目される20世紀スリランカの建築家ジェフリー・バワ(1919―2003年)を、代表作アジアン・リゾートのホテル建築14の見事な写真で紹介していて、スリランカやバリにいるような楽しさを与えてくれる。
   ル・コルビュジなどコンクリート、鉄、ガラスの建築の時代から、「庭の時代」に入ったと建築家・隈氏はいう。「庭の中に散らばった東屋の集合体」だが、そこには自然との融和・開放感がある。バワはスリランカ人と英国人混血であり、英国庭園も、イタリアのルネッサンス建築家・パラーディオの影響も見られ、東西の雑種文化である。
   モンスーンアジアという熱帯建築はいかに生まれたかを、山口氏が綿密に伝記も含めて書いている。アジアン・リゾートのホテル建築に多くの傑作を残した。この本でもジェットウイング・ライトハウス、ベントーク・ビーチ・ホテル、ヘリタンス・カンダラマ。ルヌガンガなどが紹介されている。私はルヌガンガに感嘆した。
   設計年代も1948年から98年まで掛けている。山口氏によれば、熱帯雨林のなかに、エントランスから鬱蒼とした小道を行くと、階段の先に円柱が立ち、片側にオープンエアになった東屋がみえるという。ルネッサンス期んき生まれたロッジアという建築、その先にコロニアルスタイルの建物、見える丘にはポルトガル東西貿易の壺が鎮座する。
  バワの建築は水とのコラボが美しい。エッジが水平の線で切られ、海に開かれ借景にした「インフニティプール」はバウが最初に設計した。バウ設計のスリランカの国会議事堂は周囲を見ずに囲まれ浮かんでいるようだ。日本の大伽藍のような屋根で、左右対称でないのもアジア的である。
  椰子の木の回廊や、なまの天然の岩石をそのまま廊下におくなど自然に融合しているが、インテリアも凝っている。熱帯建築は、近代建築の超克の一つの在り方かもしれない。
(新潮社、とんぼの本