佐伯和人『世界はなぜ月をめざすのか』

佐伯和人『世界はなぜ月をめざすのか』

   佐伯氏の本を読むと、いま月探査ブーム(中国は2013年月着陸に成功)であり、人類の次のフロンティアに成ってきていることが分かる。日本は「はやぶさ」の小惑星探査で沸いたが、2007年の月周回衛星「かぐや」は、アポロ計画以来の本格的探査機であった。月は、今後宇宙大航海時代の前線基地になり、月資源開発の場所が目的になると予測される。
   佐伯氏の本では、既に月表面と裏面の詳しい地図が作成され、岩石組成や地層(地殻やマントル、核など)、さらに火山、クレーター分布などが明らかに成りつつあるという。片栗粉ほどのサイズ砂粉(レゴリス)に覆われ、重力は地球の六分の一、昼は120度の灼熱、夜はマイナス120度も酷寒の世界で、これに耐えられる月着陸船が建造されてきている。同時にチタン・鉄鉱山の存在で太陽光発電の可能性、岩石からの酸素抽出、水の存在の探査も考えられている。
   月の隕石衝突でのクレーター、巨大なひび割れの地溝、水なしで出来た蛇行谷、火山地形などまで分かってきている。佐伯氏は惑星地質学が専門だから、この本でも月の岩石の分析が面白い。月も地球も深い所はカンラン石であり、月地殻の大部分は白い斜長石、どこにでもある輝石、チタン鉄鉱は月特産品などと分析し、明るい所は斜長石、暗い所は玄武岩という。「かぐや」は、月裏面に高純度斜長石を発見し、裏面から表面にマグマの大移動仮説を打ち立てた。また巨大な「縦孔構造」も見つけた。
   佐伯氏は月の謎として、月の誕生が地球から飛び出したとするジャイアンインパクト仮説の正否や、月進化として地層とともに表と裏の相違の分化、ウランなど放射性元素の濃縮地帯の存在、太陽系成立以後の隕石衝突・重爆撃期などの解明も挙げている。
   もはや月に人間が行くことは20、30年後と現実化している。日本も有人ロケット開発が望まれる。宇宙ロボット開発も始まっている。最期に私が好きな和歌一首「新古今和歌集」から。
 「秋の夜の月に心をなぐさめて憂き世に年のつもりぬるかな」                   (藤原道経)
講談社ブルーバックス