福井健策『誰が「知」を独占するのか』

福井健策『誰が「知」を独占するのか』

  副題は「デジタルアーカイブ戦争」とある。アーカイブとは,過去の情報資産である著作物、音楽、映像などを収集・公開する図書館である。それをデジタル化により、数千点のコンテンツをデータベースで公開する。「知のインフラ」創設が、いま世界でおこなわれつつある。
  福井氏によると、いまアメリカの巨大ネット企業(グーグルやアマゾンなど)の情報流通の寡占化や、知の選別・序列化が進みつつあり、これに危機感をもったEUは、2005年巨大電子図書館「ユーロピアーナ」を立ち上げ、対抗しようとしているという。いま3000万点の文化資産がネット公開されており、日本の国立国会図書館の48万点に比べても物凄い。他方では、大学でも世界大学として講義をネット化する「オープンコース」が出現している。
  日本では、アーカイブは「ヒト・カネ・著作権」で苦闘している。福井氏の本では、日本の大規模デジタル化として国会図書館電子図書館は、2005年長尾真館長もとすすめられたことが詳しく述べられている。2014年には絶版図書や雑誌131万点が、全国281図書館に配信されている。さらに国立公文書館の公文書公開や、大震災の記録のアーカイブの活動も紹介されている。だが、世界的に遅れている。
  福井氏の本で、知のインフラ整備で何が変わるかは、読み応えがある。ネット企業の検索エンジンは「周辺情報」と「体系性」と「信用性の担保」が欠ける欠点があるとし、序列的でない横断的な「連想情報学」を提案しているのは示唆に富む。デジタル化は、著作権の難題があり、著作権者が不明な「孤児作品」をどうするかの問題は重要である。
 福井氏は、今後の日本のデジタルアーカイブについて10の提案をしている。「ナショナル・デジタルアーカイブ」の設立と、全国ネット化と独自の横断検索の実現、孤児作品や絶版作品のための法制度導入、ユーロピアーナなど世界のデジタルアーカイブと接続して日本文化を発信するなどである。(集英社新書