濱田武士『日本漁業の真実』

濱田武士『日本漁業の真実』

  2014年3月25日、福島県漁業協同組合連合会は、福島原発の原子炉建屋に流れ込む前に地下水をくみ上げ海に流す「地下水バイパス計画」を、苦渋の了承に踏み切った。汚染水が増え続ければ海に流され、漁場が壊滅するからだ。底曳網漁業や沿岸漁業など福島県沖を主要海域とする漁業は本格再開していない。
  濱田氏の本を読むと、日本の漁業の危機が身に迫って来る。漁獲量はピーク時の半分以下、約40年で就業者は三分の一に、少子高齢化の上に、資源減少と魚価の低迷で、外国人船員を増やし漁業経営を維持しているという。遠洋漁業は200海里体制と、韓国、台湾、中国、ロシアなど周辺海域の漁業協定で、ピーク時の11%の漁獲量に減少し、養殖業の半分にも満たない。国際的資源保護で「厳格管理のマグロ漁業」になっている。
  流通を見ると、「魚離れ」で小売の集客競争が過熱し、スーパーの大規模化、外食産業の再編などで、大口取引が増え、卸売市場が作り上げてきた水産物流通の人的ネットワークは崩壊しようとしていると濱田氏は述べている。私が面白かったのは、濱田氏が、漁獲資源は野生生物だからといい、資源管理の難しさを詳細に検討し、乱獲論に組していない点である。
 養殖ビジネスは、カキ、ホタテ、ブリ、クロマグロ、ノリ、ウナギ、マダイなど1994年にピークになったが、その後は頭打ちになった。そこへ東日本大震災がおこった。なぜ頭打ちか。すべてを人口生産するとなれば、孵化、仔魚、稚魚の育成、仔魚・稚魚生産のための飼料生産、施設、人員を備えた種苗生産体制が必要になる。種苗の需要が拡大し、種苗価格が高騰し、飼料単価も高騰すると濱田氏は述べている。
  日本漁業は、縮小均衡はまぬかれない。ではどうするかを濱田氏は次のように主張している。①漁場の維持・保全・再生が必要である。藻場・干潟の再生、貧栄養化を起こすヘドロ除去、海底清掃、海底耕耘、植林、保護区の設定など環境再生を図る。韓国、中国、ロシア、台湾など隣国の紛争を外交努力で解決しつつ、環境再生対策を協同でおこなう。②漁業管理体制を維持し、漁獲努力量の規制、漁獲量制限や個別割当制を確保する。③消費地の卸売市場と産地との連携など卸売市場に関する政策の必要性による魚を取り扱う人たちのネットワークの再構築などである。私は、漁業は今後は「環境産業」になっていくと思う。(ちくま新書