水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』

資本主義は「中心」と「周辺」つまりフロンティアを広げることで、「中心」が利潤率を高め、資本が自己増殖していくシステムである。だが、グローバリゼーションによる新興国の成長で「周辺」が消失しつつあり、先進国はゼロ金利、ゼロ利潤、ゼロインフレの状況が続いている。水野氏は、いま資本主義の終焉が始まっていると考える。
  利子率=利潤率が2%を下回れば資本側が得るのはゼロに近く、そうした超低金利が10年以上続くと既存の経済システムは維持できなくなる。この「利子率革命」は、16世紀ジェノヴァで始まった「長い16世紀」に匹敵し、封建制から近代資本制の転換の原動力になったという。16世紀革命では新大陸など「海の交通」で「地理的・物的空間」を創り出し、資本増殖を行った。
  1970年代以後は、周辺の「地理的・物的空間」の実物経済では、BRICSなど新興国の台頭で利益が得られなくなり、アメリカは「電子・金融空間」に利潤のチャンスを見出し、金融緩和で100兆ドルの金融が世界を駆けまわり、その過剰マネーが新興国の過剰設備を創り出した。この結果はバブル経済と崩壊につながると分析している。
  水野氏によると、今後は「脱成長」社会にしか生きる道はないと主張している。その最先端に日本資本主義があるとも見ている。金融緩和をしてもデフレは脱却できないし、「雇用なき経済成長」になるという現状分析は、アベノミクスに批判的になる。構造改革や積極財政では危機は乗り越えられないと詳細に論じていて、興味深い。
  水野氏によれば、世界人口のうち豊かになれるのは、エネルギー資源など限界があり15%ほどと見る。グローバル化は、周辺の消滅を伴い、今度は反転して国内に中心・周辺の格差を増大させる。その象徴はアメリカのサブプライムローンであり、日本では労働規制の緩和である。
  ではどうするのか。水野氏はゼロ経済成長の「定常社会」をソフトランディングとしてまず維持していくという考え方のようだ。国債ゼロ金利は配当がないけれど、国内で豊かな暮らしをする「会員権」と見る。ゼロインフレは必要でない物は購入しない生活になり、エネルギー問題は安いエネルギーを国内で調達するようにし、原油価格に影響をうけないようにする。「定常社会」論なのだ。(集英社新書