渋谷秀樹『憲法への招待』

渋谷秀樹『憲法への招待』

 「朝日新聞」(2014年2月26日)によると、佐賀市に住む14人が「生活保護費減額は違憲」と提訴したという。憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」が送れなくなったためだ。憲法学者・渋谷氏の本は、憲法にたいする現代の24の設問から、日本国憲法の思想を説いている。
 この問題も設問「生活保護の支給額が低すぎるとき、裁判で差額を請求できるか」で取り上げられ、恩恵から法的権利としての「保護受給権」が「朝日訴訟」で、最高裁判決として認められたが、裁判所は請求には消極的態度を取っているという。その理由は憲法条文の基準が抽象的過ぎ、給付請求は予算など財政配分が絡み、政策的判断の余地が大きいことだと述べている。
  「憲法の条文にない『知る権利』は保障されないのか」という設問も重要である。憲法21条の「表現の自由」に情報の受け手の自由として「知る権利」と情報収集の自由としての「取材の自由」も含む解釈を示している。2001年成立の「情報公開法」では、国民主権の理念と国民に説明する責務は目的規定として書かれているが、「知る権利」は確立されたものではないと見送られた。
  2013年成立の「特定秘密保護法」について、渋谷氏は「原則公開・例外非公開」という政府情報を、原則と例外を逆転させ、特定秘密があいまいで恣意的に指定され、報道機関の取材を委縮させる上、公務員のプライバシー権利を侵害するとも述べている。
 「日本の上空を通過する他国を攻撃するミサイルを撃ち落とすことは合憲か」も重要な設問である。渋谷氏は自衛権とはなにかから説き起こし、「自衛力」の限界を具体的に「戦力」と線引きするのは難しいと考える。必要最低限度の自衛しか認めない9条の論理から、日本に集団的自衛権は、憲法では認められないという。また判例や歴代内閣の憲法解釈による「憲法慣習」からも認められず、これを変えるには憲法改正しかないというのが憲法学者・渋谷氏の見解である。
 この本は現今の問題を設問形式で解きながら、憲法の自律した「個人の尊重」という人権と、統治権のコントロールという立憲主義の精神を説いている。(岩波新書)