原田信男『和食とはなにか』

原田信男『和食とはなにか』

   2013年に和食が世界無形文化遺産に登録された。和食は、いまや文化遺産なのかと驚く。米飯よりもパンの消費量が上回っているし、学校給食始め、洋食は現代日本人の主食になりつつある。だが、米飯は日本では滅びないだろう。食のグローバル化やファーストフード化、外食化は進んでいるが。この本は「和食」の文化史ともいう本である。
   原田氏は、和食は長い歴史的伝統で作られてきたという。米文化圏と麦文化圏とを分け、麦文化圏は粉食主体、イースト菌を加え加工すればパン、伸ばせば麺文化であり、同時に牧畜による肉食、乳製品文化と見る。米文化は、粒食であり菓子も米粉で作る。家畜はブタ、鶏であり、イスラム教と同じく(麦文化だが、乳を出さないブタは忌避)料理にブタ欠落が特色で、魚介類中心という。
   原田氏は和食の原型として、古代の神へのおもてなしの「神饌料理」をあげている。飾り付けや、旬の生もの、あえ物、蒸もの、なますが古代料理法だった。弥生から古墳時代に肉食禁止令もだされたが、原田氏は仏教の影響というよりも、米豊作のためのタブーと見ている・
   平安朝の大饗料理、精進料理では、「切る」という和食の包丁術が重視され、包丁人による刺身などの「切り口」が重んじられた。室町時代茶の湯の成立と「懐石料理」が成立し、「一汁三菜」の原型が出来る。一期一会という禅から、季節の旬食材重視が出てくる。
   和食を支えるのは「旨み」の創造だったと原田氏は見る。コンブとカツオの出汁の発明と、コウジカビによる発酵で、味噌、醤油、酢、みりんの創造で、和食は室町期に完成した。江戸期は料理の大衆化と料理屋の出現である。
   私が面白かったのは、ソバ、ウドンの登場である。武蔵野台地に近い板橋や新宿で穀物商が水車を設置し、大規模なソバ粉、ウドン粉の供給体制を創り出し、江戸に単身者用のファーストフードの移動屋台が大繁盛したと指摘している。料理本も出版され、ミュシュランのような料理屋番付、太飲・大食の会、料理学校、街道沿いのドライブインなど現代の食文化が成立している。日本は、近代に柔軟に多様な食文化を取り入れてきている。それも「和食」に入る(ラーメン、カレー、コロッケなど)のだろう。(角川ソフィア文庫