池上俊一『パスタでたどるイタリア史』

池上俊一『パスタでたどるイタリア史』

   パスタの変遷をたどりながら、イタリアの歴史を描いた面白い本である。古代メソポタミアで栽培された小麦は、ギリシャ・ローマでは粉食にしてパンや、ラザーニヤで食べていた。だが、古代ローマのパスタは「練り粉」を、茹で揚げ焼くなどで、まだ調理段階での「水との結合」はなかったと池上氏はいう。
   ゲルマン民族の侵入で小麦文明は衰退し、雑穀、豆類、野菜、肉食が盛んになる。12世紀ルネッサンスで復活し、ミルクか鶏のスープで煮た「水との結合」と、チーズを使う「チーズとの結合」が生じた。北イタリアでは生パスタ、南イタリア・シシリアではアラブの影響で乾燥パスタという「南北問題」が既に出ている。中世はコシのあるアルデンテが嫌いで、茹で柔らかなパスタが好まれたという指摘は、面白い。
   大航海時代には新大陸からカボチャ、トマト、トウモロコシ、ジャダイモ、香辛料が入り、トマトソースが開発され野菜食いから「マッケローニ喰い」に転換した。世界史の転換による文明交流が、現在のパスタを創った。近代パスタの地方主義は、無数のパスタを産み、形状も呼び名も多様だったと池上氏はいう。南北だけでなく、地方ごとの「お国自慢」料理はソースまで多様であり、カラブリア州からピエモンテ州まで20州のパスタ料理をこの本で紹介している。
   1861年の国家統一は、パスタ料理による国家統一もおこなわれ、イタリア料理の父アルトゥージにより「料理の科学と美味しく食べる技法」が出版され、料理の平等化とレシピでも言語統一が行われた。国民食になったパスタは、おふくろの味(マンマの味)として捉えられていたが、20世紀にフェミニズムの影響で女性主導のパスタ観は次第に変わりつつある。
   ファシズム時代、『未来派』などによりパスタは心身を弱め、国家発展を阻害するという反対運動があったが、現在は地中海式料理やスローフード運動で中心に置かれている。(岩波ジュニア新書)