カルダレリ『ネットワーク科学』

カルダレリとカタンツァロ『ネットワーク科学』

   21世紀に入り進展している魅力的な学問領域としてネットワーク科学がある。生態系の食物連鎖、神経回路、交通網(航空網)、インターネット、遺伝子制御ネット、ウイルス性伝染病の伝播、電力網、金融網などネットワークは、現代に広範に存在する。構成要素同士のつながりのパターンをとらえ、ネットワークの動きや構成を解明し、全体を理解しようとするのが、この本で描くネットワーク科学である。
   複雑で、創発的で自己組織的なシステムを研究する「複雑系の科学」であり、とくに大量の観測データが関わる分野では必要性が増している。工学、生物学、人類学、社会学、経済学まで横断する学際的な学問といっていい。この本はネットワークの普遍性と多重性(一つ現象に複数のネットが介在する経済的ネットなど)を重視している。
   この本では広範囲にわたるネットを扱っていて、具体例が数多く紹介されていてわかりやすい。数学的な法則も活用されているが、一般の人でもわかるように書かれているので読んでいて楽しい。頂点や枝、ハブ、近接性と連結性、次数分布など専門用語が出てくるが、良く読めば理解できる。
   私が興味深かったのはネットワークを襲う大災難についてである。生態系ネットワークの「共絶滅」から、大停電や感染症パンデミックコンピュータウィルス風評被害などの「ドミノ効果」をいかに防ぐか、というネットワーク科学の取り組みを、この本は掘り下げている。2008年のリーマンショックという金融危機や、株価の相関、世界貿易網やインフラ網などグローバル化した経済学に、ネットワーク科学は重要な役割を果たすのではないかとも思った。(丸善出版、高口太朗、増田直紀監訳)