末廣昭『タイ 中進国の模索』 

末廣昭『タイ 中進国の模索』

タイは21世紀に入って政治的に不安定になっている。08年の国際空港の占拠、首都バンコックの騒乱、非常事態宣言など日本でも大きく報道された。この本は『タイ 開発と民主主義』の続編としてタイ現代史を描いている。タイの90年代は経済拡大、バブル,通貨危機という経済発展にともなう激変の時代だった。末廣氏のなぜバブルから通貨危機にいたったのかの分析は、世界経済のグローバル化の視点からされていてわかりやすい。
その対応としての政治的現代化が、01年政権をとったアジアの風雲児タクシン首相で06年クーデタにより追放されるまで改革を行った。この結果がいまの政治混迷になる。「タクシノクラシー」といわれたタクシンの改革とは何か。末廣氏はこういう。タクシンは携帯電話、ケーブルTV、コンピュータ事業でダイ最大の通信財閥の経営者だった。だからタイの株式会社化の政治になる。政治運営に企業経営の方法を取り入れる。最高経営者の首相は政治主導の「強い首相」になる。政府機関に構想―任務―ゴールを文書で提示させる行政改革。さらに都市―農村の両面作戦政策で農村にビジネスチャンスを作り出す。グローバル化、経済の自由化、IT革命への対応は、タクシンへの権力集中、巨額の自身の蓄財、親族の縁故主義をともなって、06年の軍クーデタになる。
このクーデタでタイの伝統的制度である国王や仏教の強化による「社会的公正の道」へのゆり戻しが起こる。このゆり戻しが老人支配になったのも面白い。ブーミボン国王の「足るを知る経済」も倫理・宗教からのグローバル資本主義批判として説得力は確かにある。タイの混迷は日本の政治・経済のあり方とも無縁でないと思う。私はこの本を読みながらタクシンの政治手法は小泉改革と共通性があるのではと思った。(岩波新書