宮本常一『イサベラ・バートの奥地紀行を読む』

宮本常一『イザベラ・バートの「日本奥地紀行」を読む』

民俗学者宮本常一は、日本各地を16万キロ歩き民家1千軒に泊まったという大旅行家だった。イザベラ・バードは、イギリスの19世紀女性地理学者で、朝鮮、中国、インドなど世界中を旅行した。明治初期に日本の東北や北海道を女一人で旅行し『日本奥地紀行』を書いた。この本を宮本が読み解くが、宮本の体験がバードをもとに披瀝されていて「合作」のように読めて楽しい。
外国人女性が蚤に悩まされ、民衆の好奇な目に見世物のように晒されながらも、安全に旅したのには驚く。宮本も非常に不安な世の中で色々な事件が起こってはいるが、民衆世界では平穏で安全だったのが、アジアやヨーロッパと比較して不思議とバードの目に映ったと述べている。この本は秋田、青森そして北海道のくだりが私には面白かった。
按摩の笛の音から障害者でも職業をもつと暮らしていける江戸中頃―明治の社会のあり方をバードが言う。そこから宮本は、秋田能代・八森の漁村で大量のハタハタがとれ、商人が集まり遊郭ができ、性病が増え目に黴菌が入り、その地に盲目の人が増えた。その盲人に三味線が入り、津軽じょんがら三味線に発展したと言い、三味線の歴史を沖縄と比較して述べる。
バードは北海道に渡りアイヌについて観察しているが、宮本はそれを敷衍してアイヌ論を繰り広げている。宮本によればアイヌが減ったのは日本人がアイヌ村落の周辺に混住し混血が急速にすすんだためという。さらにアイヌが狩猟民族なのに遊牧民にならず農村集落をつくつたのは、熊、鹿、猪を落とし穴で捕獲したのだと自分の調査から推測している。『忘れられた日本人』という名著をよみながらこの本を読むとなお楽しい。(平凡社ライブラリー