坪井善明『ヴェトナム』

坪井善明『ヴェトナム』―「豊かさ」の夜明け

私はヴェトナム戦争には大きな影響を受けた。またその後の社会主義国同士の中越戦争も衝撃だった。ヴェトナム現代史を知りたいと思い、この本を読む。ヴェトナム近現代史は戦争の連続だ。19世紀末フランスの侵略で植民地になり、次いで日本の仏印進駐になり、第二次世界戦争後はフランスとのインドシナ戦争、その後アメリカとの戦争、さらに1979年に中国との中越戦争と続く。80年代末からのドイモイ政策、「92年憲法」からやっと独立開放による経済開発が始まっている。
坪井氏が「中国の影」からこの本を書いているように、2000年にわたり、中国の南進でヴェトナムは大きな影響を受け、儒教文化圏に入る。いまも石油に絡み南沙列島や西沙列島という火種を抱える。華僑も問題である。さらにアジアの社会主義国として、北朝鮮の閉鎖的計画経済を取るか、中国のように改革開放を取るか、市場経済統制経済か、一党独裁か複数政党による民主化かという困難な問題を抱えている。
この本は歴史とともに、社会構造の特徴もあげていて、面白い。①識字率の高さと長寿②地縁・血縁の強さ③噂の社会③外国人への猜疑・不信感④小商人世界などを坪井氏は挙げている。また今後の経済発展の可能性を石油開発、食糧輸出、外資導入を決め手としている。
戦争の傷跡の回復とともに、今後いかに開放改革が行われていくかがヴェトナムの将来を決めるというのが坪井氏の考えのようだ。(岩波新書