『アメリカの黒人演説集』

アメリカの黒人演説集』(荒このみ編訳)




アメリカの黒人21人の演説が集められている。キング牧師、マルコムX、モリスン、オバマまで含まれている。黒人女性は7人でフェミニズムと黒人差別の二重の重荷からの開放の訴えに迫力がある。1851年ソジャーナー・トゥルースは「女じゃあないかね?」で13人子供を産みみんな奴隷に売られたといい、「神が創った最初の女が、一人で世界をひっくり返すほど強かったんだから、ここにいる女たちが一緒になったら、また世界をひっくり返して元に戻すことだってできるのさ」と演説する。メアリー・チャーチ・テレルは努力の「動機の欠如」が黒人女性を挫折させるという。黒人歌手ビリー・ホリデイを私は思う。1928年ゾラ・ニール・ハーストンはジャズを聴き野生のエネルギーを「そのとき男の白さがさらに青白くなり、私の色は鮮やかさを増す」と叫ぶ。ノーベル文学賞のトニ・モリソンは受賞演説で言葉では奴隷制度や大量虐殺、戦争を突き止めることはできず、「その力、その至福は、言語の絶した地平へ到達」することにあると言う。
 この本にはアフリカ黒人との連帯を運動するデュボイスやガーヴィーの演説、ワシントン大行進(1963年)の時のキング牧師演説「私には夢がある」、それに対抗するマルコムXの「投票権か弾丸か」も収録されている。アメリカの黒人の歴史が詰め込まれた本である。オバマ登場の背後のアメリカが、いかに黒人による自由と平等の運動に負っているかが良く理解できる。(岩波文庫