ユクスキュル『生物から見た世界』

ユクスキュル/クリサート『生物から見た世界』

生物多様性とは何なのか。それは自然の多様性とつながっている。ユクスキュルは環境と「環世界」を分けて考えている。環世界とは、動植物が環境をその主体性で意味を与え構築した世界ととらえる。環世界は主体なしには存在し得ない。ユクスキュルはその主体がいかに環世界を形成しているかを、ダニ、ウニ、クラゲ、ミミズから、ハエ、ニワトリ、コクルマカラス、イヌそしてヒトまで考察している。
生物は目的をもって生きているのではなく、自然環境のなかで「環境設計」をして生きているとする。安易な刺激―反射という本能目的論を取らない。動物の知覚像とその作用像がその動物の環境設計によって異なっている。イヌとハエの知覚像は同じ室内でもまったく違う。動物の家や故郷、仲間の設計も異なる。ミミズの葉を土穴に引っ張りこむ作用は、形態知覚でなく、葉の味覚によるというのは面白い。さらに動物にも幻想による「魔術的環世界」があるという指摘も驚く。ハエがいないのに、ホシムクドリは空中でクチバシを使い捕らえ,つつき飲み込む。渡り鳥の飛行経路も一度も渡った事のない経路を幻想により飛ぶ。
動物の環境を利用した「主体」を重視したユクスキュルの立場は、この本の翻訳者・日高敏隆の動物のパターンに優劣をつけず、海綿動物門、節足動物門、脊髄動物門とかの論理が違う環境設計を「文化」として捉えた考えに一致する。(『動物という文化』講談社学術文庫)ユクスキュルの環世界像はヒトの基層にもあり、それがガイア地球を構築したともいえる。(岩波文庫