ル・クレジオ『メキシコの夢』『悪魔祓い』

ル・クレジオ『メキシコの夢』
ル・クレジオ『悪魔祓い』


09年ノーベル文学賞受賞者フランスの作家ル・クレジオが「わたしはインディオなのである」(『悪魔祓い』)というのを私は驚愕して読んだ。この作家はメキシコに住みそこの大学に滞在し、マヤ族の『チラム・バラムの遺書』や『ミチョアカン報告書』を仏訳したインディオ研究にくわしいとしても。ル・クレジオは『メキシコの夢』でスペインの征服者に殲滅されたアステカの失われた文明を愛惜している。
西欧ルネスサンス文明からはじまる近代西欧の世界制覇の始まり。それはコロンブスジパング到達願望を20世紀アメリカが日本占領で完結した。この本を読んでいてアステカ皇帝が征服者コルテスに跪く場面は、昭和天皇マッカーサー元帥訪問を思い浮かべたし、首都テノチティトラン破壊は東京大空襲、広島・長崎原爆投下の廃墟化を思わせた・世界史はここで完結し再び始まる。
ル・クレジオはこう書く。「コルテスの個人主義、所有欲にかられた世界。狩人、黄金略奪者の世界。男を殺し、女や土地を手に入れようとする者たちの世界。もう一方はインディオの集団的、呪術的な世界。トウモロコシやいんげんの栽培者、神官や軍隊に服従し、地上における神々の代理人である王=太陽を礼賛する農民の世界。」
なぜル・クレジオインディオ文明に惹かれるのか。『悪魔祓い』にはそこがよく描かれている。現代西欧文明への嫌悪。「都市、機械化された社会、人間の集合、建築物の集合、科学の図式と辞書。進歩、歴史、宇宙の征服」ル。クレジオはインディオ文明をどう見るのか。そのみずからの終焉の夢をもつ文明、自然と超自然、神と人、生と死の連続性・同一性の信仰、風、水、草木、鳥など動物との一体化、忘我の祭式や芸術(アントナン・アルトーが憧れた)、反物質文明―呪術文明の高度な賞揚なのだ。(『メキシコの夢』新潮社・望月芳郎訳)(『悪魔祓い』岩波文庫・高山鉄男訳)