佐藤克文『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』

佐藤克文『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』


副題に「ハイテク海洋動物学への招待」とある。ペンギンやアザラシさらにウミガメの背中に「データロガー」というハイテク機器を取り付け、水生生物の生態や行動を探究するもので、日本は世界でも先端研究になっている。これまで水中に潜水しているこれらの生物の実態は未知であった。佐藤氏は何回も南極に滞在しており、その南極基地の体験も面白い。
研究はまだ途上にあるが、「教科書を書き換える」発見もあって読んでいて楽しい。ハイテク機器の進歩も日本の技術の底深さを感じさせる。ペンギンとアザラシとの南極での研究生活も、あまり生態がよく分かっていない生物なので面白い。では教科書を書き換える発見とはまにか。
これまで爬虫類(ウミガメ)は変温動物で、鳥(ペンギン)は定温動物という常識が潜水生物では覆され、長く潜水するためカメは定温を、ペンギンは変温することが分かった。ペンギンもシロナガスクジラも体重差の違いにもかかわらず、秒速2メートルと一定している。どの潜水生物も水の中をグライダーのように滑空する。面白いのは水中から浮かび上がるときの浮力の生態だ。その浮力調節は意識的に潜水距離と酸素量を計測しているかのようだ。合理的なのに驚く。
ペンギンにもアザラシにも社会性があり、育児や集団行動の生態もきちんと行なわれている。なぜペンギンは一列行進するのかとか、なぜ一斉に海に飛び込むのかも解明されている。また南極海の氷の海で潜水するアザラシに画像データロガーを取り付けたところ,厚さ150メートルの棚氷の下面にびっしりとイシギンチャクなど刺胞生物が生息し餌になっていることが分かった。もし地球温暖化が進み、氷が解けると、棚氷が崩壊しアザラシなどが絶滅する。(光文社新書