道浦母都子『男流歌人列伝』
女流歌人による男性歌人論である。鉄幹、子規、啄木、牧水、茂吉など近代歌人15人が取り上げられている。男性歌人の「相聞歌」を中心に、恋愛や結婚した妻への情念を核に歌人に迫ろうとしている。女性の視点からの男性歌人論である。
かといってフェミニズム批評ではなく、短歌の本質に迫ろうともしている。近代短歌の情念を知るにはいい本である。
鉄幹・与謝野晶子の夫婦の二人とも歌人だった複雑な愛。
「あめつちに一人の才とおもいしは浅かりけるよ君に逢わぬ時」
虎の鉄幹から紫(晶子の好きな色)の変貌が歌われる。
現代の純愛ものの先駆けだった『野菊の墓』の伊藤左千夫は10代の恋を引き裂かれ相手が死んだ情念を一生歌った。
「みづみづしき茎のくれなゐ葉のみどりゆづり葉汝は恋のあらはれ」
石川啄木はエゴイストでナルシストと決め付ける道浦氏は、妻節子は琢木の才能と彼との愛の永遠性を信じようとしたと言う。
「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ」
「口びるの紅きがなかに入りて行く牛の乳さへあなねたましも」
茂吉の官能的な情念が浮かび上がってくる。
結婚4年で病死した妻を思い続けた島木赤彦の情念
「亡がらを一夜抱きて寝しこともなほ飽き足らず永久に思はむ
」
この本は女性歌人でなければわからない恋愛の相手側(男性)の短歌が生き方とからめて描かれている。(岩波書店)