暮沢剛己『ル・コルビュジエ』

暮沢剛巳ル・コルビュジエ
「近代建築を広報した男」と副題がついているように、暮沢氏はメディア建築家としてのコルビュジエの活動に焦点を合わせている。近代建築の5原則、ドミノ・システム、モデュロールなど機能主義の規範や住宅の基準寸法は、メディア活動と密接にかかわって現代建築に広がった。この本でも一章を割いている「無限に増殖する美術館」建築もメディア建築と考えてもいいだろう。日本にただひとつの上野にある国立西洋美術館もその片鱗を見せている。
私がこの本で面白かったのは、コルビュジエの日本における3人の弟子(前川國男、坂倉準三、吉阪隆正)との関わりだった。近代日本の建築家がいかにコルビジュエに熱中したかが分かる。建築の近代主義。暮沢氏は丹下健三を日本のコルビジュとしている。だが果たしてそうか。丹下は前川國男事務所にいたし、ル・コルビジュの手法を取り入れている(広島平和祈念資料館のピロチィ方式など)。だが丹下は戦前の大東亜建設記念造営計画から大阪万博会場、東京都庁にいたる日本伝統形式デザイン建築から考えると、和洋折衷のポストモダンの傾向が強いのではなかろうか。
暮沢氏の本でもうひとつ面白かったのは、ル・コルビジュエ批判としてギー・ドゥボールやポ−ル・ヴィリリオ、さらに「斜めにのびる建築」のクロード・バランをあげていることである。現代都市の垂直性(高層化)や水平性が限界に来ている今、このあたりをもう少し論じて欲しかった。(朝日新聞出版)