鶴見良行『東南アジアを知る』

鶴見良行『東南アジアを知る』

村井吉敬『エビと日本人』(岩波新書)は41刷のロングセラーになっている。この先駆けを作ったのが、東南アジアをめぐる「歩く民間学」といわれた鶴見だった。鶴見は1960年代からベトナム反戦運動に関わっていたが、70年代から東南アジアを知ろうと死ぬ1994年までインドネシア、フイリッピン、タイ、マレーシアなどを歩き独特な観察・分析をした。
その特徴は①文化人類学のように現地を歩きフィールドワークをする②マニラやジャカルタのような中央でなく辺地から見ようとする③「台所の目」という生活に関わるモノ(バナナ、エビ、ナマコ、ヤシ、マングローブ炭)からアジアを見、その消費地である日本も逆照射する④農耕民でなく海の視点で漁民から歴史を見る。日本史学網野善彦の方法に似る⑤東南アジアの自然破壊(マングローブ林の破壊など、エビの養殖池の環境汚染など)
『バナナと日本人』では、日本人によるバナナ食の隆盛の裏にはフイリッピンの農園労働者の低賃金、農薬被害、さらに小地主の農地喪失を見事に描き出した。日本の食の高度消費社会とはなにかがよくわかる。この本では鶴見の東南アジアの研究方法が自分史的に書かれている。
鶴見はこう書く。「台所という場は、学者の仕事場である書斎よりも、学者にとってより豊かな発見の場所である、私は考えています。」文字資料重視でなく普遍的な包丁と台所から世界を知ろうとする鶴見の手法は「大きな物語」より「小さな物語」から解こうとする民俗学宮本常一の方法に似ている。そこには中央集権史観や植民地史観さらにマルクス主義史観と違う人々や自然にたいする「思いやり史観」を感じる。(岩波新書