日高敏隆『動物にとっ社会とは何か』

日高敏隆『動物にとって社会とは何か』

日高氏が亡くなった。また生物多様性の国際会議も始まった。そこでこの本を読む。動物の「種の社会」の分析で面白い。日高氏によれば動物で同じ種に属するとは「二つの個体が相互に交配可能の場合」をいう。その交配によって生まれた子も生殖能力があることが必要だ。生物は異種間の雑交には神経質ともいう。社会とは同種の個体間関係と定義づけている。ではモンシロチョウは交尾のとき、どう同種と見分けるのか。この広大の空間の中で。それは腹の色彩やにおいである。チョウがひらひら二匹で飛ぶのは見分けの求愛行動となる。
 この本のさわりは、動物が過剰人口になるほど増殖しないように、いかに本能的抑制が行われているかにある。外的要因としては天敵という捕食者の存在やウィルスなど病原菌がある。日高氏が注目しているのは内在的要因である。『群集効果』は移住バッタやレミングのように外に大挙移住して過剰人口を切り捨てる。さらに種内闘争。なわばり制、順位制、ハレム制、共食いというシステムが生理的に社会化されている。
では人間は。本能が壊されているため過剰人口への生理的調節機構はないと日高氏は指摘する。餓死、宗教的禁制、戦争、病原菌。人間は本能動物から、情報・学習動物になった。今後未来、世界人口の過剰はどうなるのかも考えさせられる・
この本の解説で生松敬三が哲学的人間論として『世界内存在』(ハイデッカー)から『環境内存在』(ユクスキュル)の重要性を説いているのも示唆的だ。(講談社学芸文庫)