浜本隆志『海賊党の思想』

浜本隆志『海賊党の思想』

   21世紀インターネット時代に、ヨーロッパで海賊党が出現し、インターネットの規制に反対し、著作権特許権の知的独占権にも異議を唱え、個人使用のダウンロードの合法化や、直接民主主義と代議制民主主義を融合させる「液体民主主義」を標榜し、ドイツ州議会やユーロ議会にまで進出したのは、かつて環境保護政党としての「緑の党」の出現に匹敵すると思われる。浜本氏は、海賊党を社会現象として捉え、その歴史的背景から、その思想、デジタル社会とヨーロッパ政治の関係を客観的に辿っている好著である。
   海賊党は2006年にスウェーデンから発祥し、ドイツに波及した。2011年世界の模造品を防止し、知的所有権を保護するACTA国際条約(日本でも12年に著作権法改正される)に危機感をもち、オンライン規制に反対し、文化の共有、知識の無料、自由化、適切なプライバシーを唱えた。ドイツ海賊党は、①個人情報保護②国家の透明性③オープンアクセス④特許権の制限⑥インフラ整備、それに「液体民主主義」という双方向性の政治を主張している。これに刺激されてか、緑の党も「個人的使用のためのファイル共有の合法化、著作権保護を5年に短縮」などを掲げた。2012年ヨーロッパ議会はACTAを、圧倒的多数で否決してしまう。
   浜本氏の本で面白いのは、その思想を辿ったことだ。ハーバーマスの「公共性の構造転換」で、国家がメディアに関与し、市民的公共圏を崩壊させたという主張の上に、新たに「ネット公共圏」を創り出す思想基盤を海賊党にみている。さらにベンヤミンボードリヤールのいうコピーやシュミラークル文化の自由さを、もはや著作権で縛るのは不可能だと述べ、ダウンロードによるコピー文化容認の思想的背景と見ている。その上で海賊党の特性を、フラット化、透明性(ウィキリークスの活動)、ユビキタス化(いつでも、どこでも、だれでも)と捉えている。
  双方向性の「液体民主主義」やネット選挙には、まだまだ難題がる。ドイツでも2013年に海賊党は失速しているが、ネットの自由という「ワンイッシュー政党」という素人集団であったことも浜本氏は指摘している。だが、ソーシャルメディア時代での問題提起として、意味をもつと私は思う。国民的人気の漫画「ONE PIECE」国である日本で、海賊への関心が薄いのは納得できない。(白水社