宮田律『世界を標的化するイスラム過激派』

宮田律『世界を標的化するイスラム過激派』

宮田氏の見方は、「アラブの春」は破綻し、アメリカの対テロ戦争の結果は「ジハード」(聖戦)と、「フィトナ」(イスラム世界内の宗派などの内乱)を激化させているというものだ。確かにシリア内戦は終結が見えないし、エジプトもイラクも内戦寸前だし、アフガニスタンパキスタンではタリバンが再興してきている。アフリカでもアルジェリア、マリなど「イスラム原理主義」「イスラム過激派」は成長を続けている。
宮田氏は高まりゆく「ジハード」の潮流のなかで、アルジェリア日本人人質事件を捉えている。また対テロ戦争の破綻が、いかにタリバンを伸長させたかも分析している。
パキスタンの女子学生マララさんを銃撃したパキスタンタリバンは、ソ連のアフガン侵攻で300万人の難民がパキスタンに流れ込んだが、そのなかからタリバンが生まれ、孤児が多く男子神学校でイスラム原理主義を学び、その男子社会が女性の差別と教育を拒否するイスラム世界で特異な状況を作ったという。他のイスラム諸国では女性の識字率を高めようとしている。パキスタンの女子識字率は36%。
パキスタンとアフガンの国境地帯の部族地域がタリバンを産み出したのは、アメリカ軍の攻撃であり、無人機の市民攻撃が今やますます先鋭化させていると、宮田氏は見る。政府支配層の腐敗が、さらに国軍のなかにもイスラム過激派を産む原因になっている。
私が教えられたのは、イスラム過激派を増殖するサウジアラビアの分析である。オサマ。ビンラディンを生み出し、王政が国教とするワッハーブ派の厳格な教義と、王族の贅沢な暮しと腐敗、さらに貧富の格差の激しさが、過激派の活動を助長していると指摘している。
サウジはシリア内戦の反アサドのヌスラ戦線を支援しているが、アメリカの軍産複合体の支援による巨大な軍事費支出の軍事国家である。宮田氏によると、2009年の統計では、イスラエル軍事費が140億ドルに対してサウジは390億ドルに上る。どちらもアメリカの軍事産業の武器購入国なのだ。サウジでは支配層がアメリ軍事産業から手数料を得ているともいわれる。イスラム過激派にアメリカ製武器が流れていく悪循環が皮肉な結果となってでてきているのは、アフガン、イラクでも考えられる。この本は欧米との関係など多くの情報が詰まっており、一読の価値がある。(角川書店