ダワーとマコーマック『転換期の日本へ』

W・ダワーとマコーマック『転換期の日本へ』

ダワー氏はマサチュ−セッツ工科大名誉教授であり、マコーマック氏はオーストラリア国立大名誉教授であり、二人とも日本を愛している日本・東アジア近代史の大家である。両人がいまの東アジアの危機のなかで、日本の選択を考えた良書である。日本はアメリカの従属を続け「パックス・アメリカーナ」を強めるのか、それとも東アジア諸国と平和と友好のなかで、経済共同体を作る「パックス・アジア」を選択するのかを、深い歴史的造詣で語り合っている。
    二人に共通しているのは、第二次世界大戦後、日本が独立した1951年のサンフランシスコ講和条約日米安保条約体制が、いまの領土問題などの歪みを生んでいるという認識である。ダワー氏は、「恩恵」と「拘束衣」があるとして、①沖縄と「二つの日本」②未解決の領土問題③米軍基地④再軍備⑤「歴史問題」⑥「核の傘」⑦中国と日本の脱亜⑧「従属的独立」の8点から分析していて、説得力がある。その分析の上で、いま進められているアメリカの「国家安全保障国家」によるハイテク軍事力と、韓国・日本を同盟国にした第一列島線の中国沖合水域への中国封じ込めの「エアー・シー・バトル」の危険性を指摘し、日本自衛隊の「動的防衛力」構想がナショナリズムを伴い、軍事的膨張競争を強めているという。
    マコーマック氏は、サンフランシスコ体制を「対米追随」の「属国」とまで日本を規定し、「自主独立」派との70年の相克を指摘している。マコーマック氏の論文が面白いのは、東アジアの中心になる辺境の沖縄、馬毛島(鹿児島県)、八重山諸島与那国島尖閣諸島を矛盾の最先端として捉えていることだ。私はこの本により過疎で苦しむ馬毛島与那国島が、軍事基地化や自衛隊誘致で島民が二分に割れて、尖閣問題でさらに矛盾が深まっていることを知った。また政府と文科省竹富島の教科書に、愛国心を強調する「新しい教科書」を採択する圧力をかけたことも。マコーマック氏は「教科書問題は、国境の島々に段階的に強化されつつある日本の軍事力配備と切り離せない」という。
    アメリカが近年「帝国大統領制」に傾斜し、対内的には秘密活動を、対外的には隠密作戦をおこない、サイバー作戦、宇宙作戦までハイテク戦争を目指すため、人権や市民的自由が危険にさらされているというダワー氏の指摘は、日本安倍政権の特定秘密保護法成立と連動していると思った。二人とも沖縄まどの東アジア友愛と連帯の市民活動に希望をもって見ているのも共通している。(NHK出版新書、明田川融、吉永ふさ子訳)