牧野淳一郎『原発事故と科学的方法』

牧野淳一郎『原発事故と科学的方法』

牧野氏は天体物理学者だが、2011年3月11日の福島原発事故以降、政府や東京電力、マスコミの発表が、事態を「過小評価」しているのではないかと疑い、自分の物理学的方法で、放射性物質放出量の大きさを計算し、ネットで伝えていたのが、後に正確であることで評価された。
  この本でも、専門家集団や政府、東電の事故直後の規模が何桁も過小評価されていたことを明らかにし、そのようなウソやデタラメを、専門家以外の一般市民でも、測定・観測データと高校物理学で 科学的に明らかにできると述べている。
さらに、2006年の衆議院で巨大地震発生時の原発事故の危険性への吉井英勝議員の質問に、安倍総理は我が国では非常用ディーゼル発電機のトラブルや冷却機能が失われた事例はなく、経産省では評価は行っていないと答弁していたが、その時には事故のシミュレーションはおこなわれていた。そこで冷却機能喪失で、短時間で圧力容器破損のメルトダウンと、大量の放射性物質の放出は分かっていたという。なぜそうした大ウソが行われていたかを、牧野氏は分析している。
   危険性の過小評価は、被曝の健康影響にもあるのではないかと牧野氏は、チェルノブイリの前例を検討して2桁の過小評価を、はじき出している。長い期間にわたる甲状腺がん発生率の正確な答えが出ていない状況では、どんな方向で間違いをしているかを十分に頭にいれておかないと、大変な間違いをするという。
  牧野氏は原発の問題を、原発の専門家や政府機関に任せるのは危険だと考えている。ちょっとした科学的検討で専門家でなくてもおかしいとわかるという。現在の原発は冷却機構が故障したら大事故に直結するから、既存の原発を再稼働するのは、危険な選択と牧野氏は、この本で訴えている。(岩波書店)